相続財産(遺産)のうち、土地・建物といった不動産はその価値が日々変動するため、いつ・どのように評価するかが問題となり得ます。この記事では、遺産分割や遺留分請求といった相続問題における不動産評価の基準時・評価方法について解説します。

不動産評価の基準時や評価の方法は?

相続財産の典型的なものと言えば、現金・預貯金といったいわゆる「お金」と、自宅の土地建物などの「不動産」が挙げられます。

「お金」の場合は数量が明確ですから、その価値が争いになることはほとんどありません(なお、昔の金銭贈与を特別受益として評価する場合は、貨幣価値の変動を考慮することになるため、消費者物価指数を参考に評価をし直すことはあります。)。

一方、土地・建物といった「不動産」の場合は、その価値が日々変動しますから、いつ・どのように評価するかが問題となり得ます。

そこで、相続にかかわる諸場面で不動産がどのように評価されるのか、以下解説していきたいと思います。

1 遺産分割の対象となるときの不動産評価の基準時

不動産の評価時点としては、遺産分割をするとき、すなわち「今」を基準とする遺産分割時説と、相続開始時(被相続人が亡くなったとき)を基準とする相続開始時説がまず考えられるところです。

そして、裁判所をはじめとした実務においては、遺産分割をするときを基準とする遺産分割時説が採用されています。つまり、「今」が基準になります。

これは、様々な考え方があるところとは思いますが、遺産分割というのが、そもそも「今、この場に残っている相続財産をどう分けるか」という問題意識から出発するからであり、「今」の値段で評価し、考慮・計算して分割をしなければ不公平になるからという説明が可能と思います。

したがって、自宅などの不動産を遺産分割する際には、その価値は「今」の価値として考えていくことになります。

2 特別受益として不動産の価値を考慮するときの基準時

「特別受益」とは、被相続人から生前に贈与を受けていたり、あるいは遺贈を受けたりする場合に、その贈与・遺贈を遺産の前渡しとみて、計算上、相続財産に加算して(これを「持ち戻し」といいます。)相続分を算定するという制度です。

要するに、特別受益とは、相続人間の公平を実現するための計算上の数字ということになります。

特別受益がある場合には、相続開始の時に被相続人が有していたプラスの財産(「積極財産」といいます。一方、借金などのマイナスの財産は「消極財産」といいます。)に、遺産の前渡しである特別受益の分の金額を足して、「みなし相続財産」の金額を算定します。
各共同相続人間の相続分の算定に際しては、この「みなし相続財産」の金額を基礎にして計算していくことになります。

特別受益がある場合には、相続開始時の遺産額に特別受益の金額を加算して「みなし相続財産」の金額を算定することになりますから、その評価の時点は相続開始時となります。
すなわち、不動産が生前贈与や遺贈をされた場合には、その不動産の相続開始時の価値を評価し、その金額を加算することになります。

したがって、特に生前贈与が昔に行われた場合には、贈与された不動産の価値の変動が大きい可能性がありますから、注意が必要になるということになります。

3 遺留分を算定するときの不動産評価の基準時

「遺留分」とは、主に遺族の生活保障という目的から、被相続人の財産のうち、法律上、その取得が一定の相続人に留保されている部分のことを言います。この「遺留分」の部分に関しては、被相続人が贈与や遺贈などによって自由な処分をすることができないとされています。

平たくいうと、一定の相続人において最低限もらえる遺産(あるいはその相当額の金銭)ということです。

遺留分がいくらであるか算定するための遺留分算定の基礎財産については、相続開始時点を基準に算定すべきとされています。

これは、遺留分に関する権利が発生するのは相続開始時点であることが主な理由です。
したがって、遺贈された不動産を含む相続開始時点の被相続人の積極財産や、生前贈与として遺留分の計算に含まれる不動産については、いずれも相続開始時の価値を評価し、その金額を加算して遺留分算定のための財産の総額を計算していくことになります。

4 不動産評価の基準時、実際は…

以上のとおり、遺産分割時または相続開始時の評価を使い分けているということをお伝えいたしましたが、実際の遺産分割交渉や遺産分割調停などの場では、当事者同士の合意ができた評価時点・評価額を計算に使用していることが多くあります。

例えば、全ての評価の基準時を相続開始時にしてしまって、相続税申告時の書類を参考にして相続税評価額を使用して算定していくというようなこともあり得ます。また、昔に行われた生前贈与についても、計算を簡略化するために、相続開始時の評価に計算し直さず、贈与時の価格をそのまま採用する(=基準時を贈与時とする)ことで合意することもあります。

上記1から3の考え方は原則的なもので、実際の交渉や調停の場では、遺産分割等の全体の合意を形成するために、柔軟に運用されているというところではないでしょうか。

5 評価の方法について

不動産の評価額については、固定資産税評価額、相続税評価額(路線価)、地価公示価格、都道府県地価調査標準価格といった公的な基準が存在します。

またいわゆる時価(市価)を不動産業者や不動産鑑定士に算定してもらうという手法も存在します。

さらに、例えば土地については、固定資産税評価額は概ね時価の70%といわれていますので、割り戻して時価を推定することもあります(相続税評価額の場合は時価の概ね80%程度といわれています。)。

このように、不動産の評価方法には様々な方法がありますが、必ずこの手法・この数字を用いなければならないというものがあるわけではありません。

特に遺産分割等の話し合いや調停といった手続きでは、上記の基準時の話と同様に、当事者同士の合意形成のために、当事者が納得する評価額・評価方法を採用していくことが多いように思います。

ただし、不動産の評価方法や評価額については、かなり熾烈な争いになることが多く、当事者がお互いに様々な数字を主張することによって、話し合いや調停が長びくことが多々あります。

そのような場合は、不動産鑑定士によって評価を行い、この点に関する争いに決まりをつけて、次の論点に話し合い・調停を進ませるということもよくされているところです。

6 まとめ

価値が日々変動する「不動産」に関して、相続に関する諸問題の場面で、いつ・どのように評価するかについて解説してきました。

不動産は、預貯金に比べてその価値が分かりにくく、また高額にもなりやすいので、その評価について熾烈な争いになることも少なくありません。

不動産の評価について争いが生じている、生じそうな場合、あるいは不動産の数が多い場合などは、相続問題の解決に向けて、一度弁護士までご相談されることをおすすめいたします。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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