相続人について

Q1 非嫡出子(婚外子)は相続人になりますか?

非嫡出子も相続人の「子」であり、相続人になります。

Q2 お腹の中の胎児は相続人になれますか?

胎児であっても、すなわち胎児の時に被相続人(両親など)が死んだ場合であっても、その後出生した子は相続人になります(民法886条)。

Q3 内縁の妻は、内縁の夫の相続人になりますか?

内縁の妻は法律上の相続人ではありません。
もっとも、内縁の夫が死亡した場合の内縁の妻の居住権については、裁判例上、一定の配慮がなされています。例えば、内縁夫婦が借家で暮らしていたが、賃借人である内縁配偶者が死亡した場合に、賃貸人からの明渡請求に対して相続人の相続した借家権を援用するという構成で、あるいは、相続人からの明渡請求に対しては権利濫用に当たるという構成で、それぞれ内縁の妻の居住権を保護する裁判例も存在します。

Q4 再婚相手の連れ子は相続人になりますか?

なります。

再婚相手の連れ子というだけでは相続人にはなりませんが、その連れ子と養子縁組をした場合には、法律上の「子」として、相続人になります。

Q5 他家に養子に行った子は実母・実父の相続人になりますか?

普通養子縁組の場合には、他家に養子に行った子も実父・実母の相続人になります。

他方、特別養子縁組の場合、縁組の日から実親との親子関係を終了させて、養親との間に実親子と同様の親子関係が成立するため、実父・実母の相続人にはなりません。

Q6 養親の死亡時にすでに養子が亡くなっていた場合、養子縁組の後に生まれた養子の子は養親の相続人(代襲相続人)になりますか?

養子縁組後に生まれた養子の子は、「被相続人の直系卑属」にあたりますので(民法887条2項)、養親の相続人(代襲相続人)になります。

一方、養子縁組前に生まれた養子の子は、「被相続人の直系卑属」にはあたらず、養親の相続人(代襲相続人)にはなりません。

Q7 家庭内暴力の息子に長年悩まされてきました。この息子に遺産を相続させたくないのですが、何か方法がありますか?

あります。

相続人である息子による虐待、侮辱、その他著しい非行があった場合、家庭裁判所に対し、相続人の資格をはく奪するよう請求することができます。この制度を「排除」といいます(民法892条)。


法定相続分について

Q1 非嫡出子(婚外子)の法定相続分は嫡出子とは違うのですか?

いいえ。違いません。
民法900条4項は、平成25年に改正され、改正前の民法900条4項但書において、「ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出子の相続分の2分の1とし」とあって、法定相続分が違っていたのを、最高裁平成25年9月4日付決定により、(平成13年7月当時において)嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていると判断しました。これを受けて法律が改正され、子が数人あるときの各自の相続分は、嫡出子であっても非嫡出子であっても等しいものになりました。

Q2 腹違いの兄弟姉妹の法定相続分は両親を同じくする兄弟姉妹と違うのですか?

はい。違います。
父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります(民法900条4項但書)。

Q3 代襲相続人の相続分はどうなるのですか?

代襲相続人となる直系卑属(被相続人の孫)の相続分は、その直系尊属(死亡した被相続人の子)が受けるべきものであったものと同じとなります。
また、兄弟姉妹の代襲相続人となる子の相続分は、その兄弟姉妹が受けるべきであったものと同じとなります。

Q4 相続人に相続放棄をした人がいる場合の計算方法はどうなりますか?

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

そもそも法定相続人ではなかったのと同様の扱いとなりますので、相続分については、放棄をした者を相続人の数に参入しないで計算します。

Q5 相続人の中に生前贈与を受けた人がいる場合の計算方法はどうなりますか?

共同相続人の中に、被相続人から、婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた者があるときには、相続人間の衡平を図るために、被相続人が相続開始のときに有していた財産の価額に、その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなして(これを「持ち戻す」といいます)、相続分が算出されます。

生前贈与がある場合には、これを相続開始時の相続財産に加算して、相続財産とみなし、法定相続分率(指定があれば、指定相続分率)を乗じて、各共同相続人の取得すべき相続分を算出します(「本来の相続分」「一応の相続分」)。

そして、贈与を受けた相続人については、その贈与を受けた価額を控除して、その者の相続分(「具体的相続分」)とします。

Q6 相続人の中に寄与分がある場合の計算方法はどうなりますか?

共同相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与があった場合には、その相続人に寄与分として、遺産中から一定の財産を取得させ、残ったものを相続財産とみなして、相続分を算定し、貢献した相続人に対しては、その算定された相続分に寄与分を加算したものを取得額とします。

これは、共同相続人間の実質的な衡平を図ろうとする趣旨です。


遺産該当性について

Q1 預貯金は遺産分割を終えた後でないと引き出せないのでしょうか?

最高裁判決(平成28年12月19日決定)により、「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」と判断されましたので、預貯金は遺産分割を終えた後でないと引き出せなくなりました。

しかし、遺産分割協議が調うまでの間、葬儀費用等を被相続人の預貯金から支払えなくなる、それまで被相続人に扶養されていた相続人が当面の生活費を引き出せずに困窮してしまうといった弊害もあります。そこで、遺産分割前であっても、相続開始時の預貯金額の3分の1×請求者の法定相続分に相当する金額(ただし、最大150万円まで)を引き出すことができる仮払いの制度があります。

Q2 亡父が私を受取人として生命保険に加入しており、死亡保険金を受け取ったのですが、これも遺産として皆で分けなければならないのでしょうか?

この場合、死亡保険金は受取人として指定された者の固有の財産となりますので、死亡保険金は遺産には含まれません。受取人が全額取得することになります。

Q3 遺族年金を受けることになりましたが、これも遺産として皆で分けなければならないでしょうか?

いいえ。

遺族年金は国家公務員共済組合法等の法律の規定に基づいて、受給者固有の権利として受給するものですから、遺産には含まれません。受給者が全額取得することになります。

Q4 亡父がアパート経営をしており、亡くなった後も賃借人から賃料の入金があります。これらの家賃収入も遺産として皆で分けることになるのでしょうか?

相続開始後の賃料収入は遺産には含まれず、法定相続分に応じて当然に分割され、各相続人がそれぞれの法定相続分に従って取得するものとされています。

ただし、相続人全員の合意があれば、賃料収入を遺産分割の対象に含め、法定相続分と異なる割合で分けることも可能です。

Q5 亡父が借りていた土地の借地権を相続することはできますか?

できます。
相続の対象となるのは「相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務」(民法896条)であり、土地の借地権もこれに含まれますから、相続することができます。

Q6 先祖代々のお墓は遺産となりますか?

いいえ。
お墓(墓石)は祭祀財産(民法897条1項)であり、祭祀承継者が引き継ぐものです。遺産とはなりません。

Q7 私は葬儀で喪主を務め、葬儀費用を自分の預金から支払いました。この葬儀費用を他の相続人にも法定相続分に応じて支払うよう請求することができますか? また、葬儀の際に弔問客からいただいた香典については、遺産として皆で分けることになるのでしょうか?

葬儀費用は法的には喪主の負担となりますが、相続人全員の合意により異なる処理をすることも可能です。例えば、まず香典を葬儀費用に充当し、不足分については相続財産(被相続人の預貯金など)から支払い、それでもなお不足する時は各相続人が相続分に応じて負担するという処理の仕方が見られます。

ただし、分不相応の葬儀を営んだ場合、相応の葬儀との差額分については喪主が負担すべきです。

葬儀費用に充当してもなお香典が余る場合、余った香典は葬儀を主催した喪主が取得するのが一般的です。


遺産の評価について

Q1 父が亡くなったのは15年前になりますが、この度ようやく遺産分割協議を始めることになりました。遺産である土地の価格はこの15年間で高騰しています。 この場合、土地の評価額は15年前のものになりますか?

いいえ。遺産の評価額は、遺産分割の時点とするのが実務の大勢です(遺産分割時説。大阪高判昭和58年6月2日判例タイムズ506巻186号など)。
したがって、15年前ではなく、現実に遺産を分割する時点の評価(ご質問のケースでは高騰した現在の価格)に従って遺産を分割することになります。

Q2 生前贈与を受けた土地はいつの時点の価格で評価するのですか?

生前贈与を受けた土地が特別受益に当たる場合、相続開始時の価格を基準とするのが実務の大勢です。
実務では、まず相続開始時の生前贈与および遺産の価額を基礎にして持ち戻し計算を行い、具体的相続分を計算した上で、再度、遺産分割時の価額を確定して、具体的な配分額を決めることになります。

Q3 生前贈与を受けた現金は、いつの時点で、どのように評価するのですか?

生前贈与を受けた現金が特別受益に当たる場合、相続開始時の価格が基準とするのが実務の大勢です。
そして、贈与時の金額と相続開始時の物価指数の変動を考慮し、消費者物価指数報告(総務省統計局編)の消費者物価指数などにより、贈与時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価することになります(最判昭和51年3月18日民集30巻2号111頁)。


特別受益・寄与分について

Q1 長女は亡父から大学院への進学費用や留学費用として約600万円を出してもらっています。うちは両親ともに高校卒業で、次女である私も短大卒業後すぐに就職しています。亡父は一般的なサラリーマン、母は専業主婦という家庭で、特に裕福だったわけでもありません。 この場合、長女が出してもらった約600万円は、特別受益になりますか?

なる可能性が高いと言えます。
被相続人が相続人のために教育費を援助した場合、一定の範囲でこの教育費が「生計の資本」として特別受益に該当しうるケースがあります。
本件のような場合、親の資産及び社会的地位・他の相続人が受けた教育との比較から、大学院への進学費用・留学費用が「親が負担すべき扶養義務の範囲」を超えているとして、特別受益とされる可能性が高いと思われます。

Q2 長女は結婚に際して亡父から新居の頭金約1,000万円を出してもらっています。 この場合、長女が出してもらった約1,000万円は、特別受益になりますか?

なります。
居住用不動産の取得のための金銭の贈与は、生計の基礎として役立つような財産上の給付といえるため、特別受益に該当するといえます。

Q3 妻の家事労働は寄与分と評価されますか?

「寄与分」が認められるためには、被相続人と相続人との身分関係から見ても「通常期待される程度を超える貢献をした」と評価される必要があります。夫婦間には法律上の「協力扶助義務」が課されており、妻が家事労働をして夫を支えても、それは一般的にはこの「協力扶助義務」の範囲内と考えられます。また、そもそもこの「協力扶助義務」があるからこそ、配偶者にはもともと2分の1という高い法定相続分が認められています。
従って、妻の家事労働に寄与分があると評価することはできません。

Q4 長年亡父の家業を手伝ってきた長男夫婦の働きは寄与分として評価してもらえますか?

その家業の労務に見合った報酬を得ることなく、長期間これに従事していたという場合には、寄与分は認められています。
「対価を受けている」からといって直ちに寄与分が認められないというわけではなく、有償での従事でも「対価をもらっていた以上に相続財産の増加や維持に貢献している」と認められる場合には、その分について寄与分が認められるケースがあります。

Q5 寄与分と認められるにはどのくらいの介護への尽力が必要ですか?

直系血族・同居の親族・夫婦・兄弟姉妹といった一定の親族間には、民法上互いに扶養すべき義務が課されていますので、その扶養義務の範囲を超える内容の療養看護がなされていて初めて、寄与分として考慮されることになります。
たとえば、認知障害の発現などにより、通常であれば家政婦・家政夫等の助けを要するというような状態にある被相続人の療養看護を(そのような者を雇わずに自分自身で)行った、という場合には、この「扶養義務の範囲を超える内容の療養看護」と評価できると考えられます。


遺言について

Q1 私は現在17歳ですが、有効な遺言書を書くことができますか?

できます。
遺言は、「15歳に達した者」であれば書くことができます(民法961条)。
従って、17歳のあなたは有効な遺言書を書くことができます。

Q2 自筆証書遺言は、全部手書きでなければダメですか?

遺言書を作成した日が平成31年1月13日より前か後かで異なります。

これまで、自筆証書遺言は、その全文、日付及び氏名をすべて自書(手書き)しなければならず、代筆やパソコンによる作成は認められていませんでした。
  しかし、相続法の改正により、平成31年1月13日以降に作成する自筆証書遺言のうち財産目録として添付する書面については、自書によらない方式でも作成できるようになりました。つまり、遺言書本文に添付する財産目録については、代筆やパソコンによる作成、あるいは不動産登記簿謄本や預金通帳の写しを添付する、といった方法で作成できるようになったのです(ただし、各ページに遺言者の署名押印が必要ですので、ご注意下さい)。

Q3 印鑑の代わりに拇印が押してある自筆証書遺言は有効になりますか?

有効になります。
最高裁判例(平成元年2月16日民集43-2-45)は、自筆証書(民法968条1項)にいう「押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもつて足りるものと解するのが相当である。」としています。

Q4 自筆証書遺言を見つけたらどうすればよいですか?

自筆証書遺言書を家庭裁判所に提出して検認を請求しましょう(民法1004条1項)。
検認の申立てをする裁判所(管轄裁判所)は、相続開始地(遺言者の最後の住所地)です。封印のある遺言書(ただ封筒に入っている遺言書ではなく、封に印が押されている遺言書)は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ開封することができません(民法1004条3項)ので、注意をして下さい。

Q5 日付の異なる遺言書が3通でてきました。どれが有効になりますか?

最新の日付のものが有効になります。
「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その全部または一部を撤回することができる」とされています(民法1022条)。そこで、新しい遺言を作成することにより、前に作成した遺言が撤回されたと考えることができるので、最新の日付のものが有効となるのです。
また、遺言の撤回は「遺言の方式」に従ってなされていればよいとされています。従って、前の日付の遺言が公正証書遺言であり、最新の日付のものが自筆証書遺言でなされていたとしても、最新の日付のものが有効となります。

Q6 遺言で生命保険の受取人を変更することができますか?

保険法44条1項により「保険金受取人の変更は、遺言によってもすることができる」とされています。従って、遺言で生命保険の受取人を変更することは可能です。

Q7 公正証書遺言はどこの公証役場で作ればよいですか?

公正証書遺言を作成する公証役場に制限(管轄)はありません。そのため、全国どこの公証役場でも作成することができます。

Q8 公正証書遺言を作成する際の証人は、どのような立場の人が何名必要ですか?

公正証書遺言を作成するには、次の①〜③に該当しない人が、2名以上必要です(民法969条1項)。
①未成年者
②推定相続人、受遺者、推定相続人と受遺者の配偶者、推定相続人と受遺者の直系血族、
③公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人
これら①~③に該当する人は証人になることができません(民法974条)。

Q9 故人が公正証書遺言を作成していないかどうか調べる方法はありますか?

平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば、公証役場に問い合わせる方法により調べることができます。ただし、秘密保持のため、問い合わせができるのは相続人等の利害関係人に限られています。
公証役場に問い合わせをするには、被相続人が死亡したという事実の記載があり、かつ、被相続人との利害関係を証明することができる記載のある戸籍謄本(例えば、被相続人が自分の親である場合には、被相続人の除籍謄本と、自分の戸籍謄本)と身分証明証を持参するとよいでしょう。


遺産分割協議について

Q1 相続人の中に未成年者がいる場合はどうすればいいですか?

未成年者は財産に関する法律行為を制限されていますので、親権者(ないし後見人)が未成年者に代わって遺産分割協議を行うということになります。
ただし、未成年者とともに親権者も相続人となるような場合には、未成年者と親権者の利益が相反することになりますので、親権者は未成年者のため家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。

Q2 相続人の中に成年被後見人がいる場合はどうしたらよいですか?

成年被後見人は財産に関する法律行為を制限されていますので、成年後見人が成年被後見人に代わって遺産分割協議を行うことになります。
ただし、成年被後見人とともに成年後見人も相続人となるような場合には、成年被後見人と成年後見人の利益が相反することになりますので、後見監督人が選任されている場合を除き、成年後見人は成年被後見人のため家庭裁判所に特別代理人の選任を請求しなければなりません。

Q3 当事者間で遺産分割協議がまとまらない場合にはどのようにしたらよいでしょうか?

家庭裁判所を利用する場合と利用しない場合とに分けて考えられます。
家庭裁判所を利用しない場合、第三者に仲立ちを依頼する、代理人(弁護士)を立てて協議を継続するという方法が考えられます。
家庭裁判所を利用する場合、まずは遺産分割調停を申し立てて調停の場で協議をすることになります。調停でも協議がまとまらない場合には調停不成立となり、家庭裁判所が判断を下す審判手続に移行することになります。

Q4 母の面倒をみることを条件に自宅を相続した長男が全く母の面倒をみてくれません。長男が約束を破ったことを理由に遺産分割協議をなしにして、最初からやり直すことはできますか?

最高裁判決(平成元年2月9日)によれば、「遺産分割協議成立後は、債務を負担した相続人(ここでいう長男)と債権を取得した相続人(ここでいう母)の債権債務関係が残るのみであり、相続人(長男)が負担した債務を履行しない場合であっても、その債権を有する相続人(母)は、債務の履行を求めることはできても、遺産分割協議の解除を求めることはできない」とされていますので、相続人の全員が遺産分割協議の解除に合意しているような場合を除き、遺産分割協議を最初からやり直すことはできません。

Q5 遺産分割協議後に遺言書が発見された場合にはどうなりますか?

遺言書は被相続人の意思を示したものとして最大限尊重されるべきものとされています。
他方、遺言書において遺言書と異なる遺産分割が禁止されている場合を除き、相続人や関係者(受遺者や遺言執行人)が同意している場合には、遺言と異なる遺産分割協議も可能とされており、いずれの観点を重視するかが問題となります。
この点について、分割方法を定めた遺言書の存在を知らずになされた遺産分割協議は錯誤無効の可能性があるとした最高裁判決(平成5年12月16日)があります。この判決を前提とすれば、遺産分割協議後に遺言書が発見された場合でも遺産分割協議が当然に無効となるわけではありませんが、相続人が遺産分割協議に異議を唱え、遺言書と遺産分割協議の内容とが著しく異なる場合には、遺産分割協議の効力が否定される可能性があるということになります。
そこから、まずは発見された遺言書の内容を確認し、その上で従前の遺産分割協議を維持すべきか否かについて相続人の全員で話し合いを行うことが重要かと思います。
なお、遺言書において遺言執行者が指定されていた場合、相続人の廃除が定められていた場合、相続人の一人が遺言書を隠していた場合等には別の処理となることがあり得ますのでご注意ください。


相続放棄について

Q1 相続放棄をした者の子は代襲相続人になれますか?

なれません。
代襲相続の発生原因は、相続人の死亡、相続欠格(民法891条)、相続廃除(民法892条)に限られますので、相続放棄によって代襲相続は発生しません。

Q2 私は父が亡くなる数か月前に、父や他の相続人に懇願されて「父の遺産についてはいかなる権利も主張しません。相続放棄いたします。」との念書を書いてしまいました。 私は父の遺産分割で何も取得することはできないのでしょうか?

いいえ。できます。

生前に相続放棄をすることはできませんので、念書は無効です。そのため、遺産分割において自身の法定相続分を主張することができます。

Q3 相続放棄の順番(1) 母が亡くなり、相続人は私と弟の2人です。母には多額の負債があるので、私は相続放棄をする予定なのですが、私が放棄した後に私の子も相続放棄をしないと負債を受け継いでしまうのでしょうか?

引き継ぎません。
相続放棄をしても代襲相続は発生しませんので、お子さんは負債を代襲相続しないからです。

Q4 相続放棄の順番(2) 長男(独身・子なし)が亡くなり、相続人は母である私一人です。長男には多額の負債があるので、私は相続放棄する予定なのですが、私が相続放棄した後に、存命している私の父(長男から見れば祖父)も相続放棄しないと負債を引き継いでしまうのでしょうか?

引き継ぎます。
直系尊属は親等の近い者から相続人となりますので、あなたが相続放棄をした結果相続人ではなくなると、ご存命のあなたのお父様が相続人となり、負債を引き継ぎます。
これを防ぎたいのであれば、あなたのお父様もあなたに続いて相続放棄する必要があります。


遺留分侵害額請求について

Q1 兄弟姉妹は遺留分を請求できますか?

できません(民法1028条)。
例えば、配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合には、全財産を配偶者に相続させるという遺言をしても、当該配偶者が兄弟姉妹から一部を取り戻されることはありません。
 

Q2 父が亡くなり、相続人は母、長男、長女の3人です。父は生前「全ての財産を長男に相続させる」旨の遺言書を残していました。 この場合、長女の私は何ももらえないのでしょうか?

いいえ、決してそんなことはありません。
あなたは被相続人の長女(相続人である直系卑属)ですから、長男に対して遺留分侵害額請求権を行使し、遺留分を主張できます。
  本件におけるあなたの遺留分の割合は、
(全体の遺留分)×(長女の相続分)=(長女の遺留分)
   1/2    ×   1/4   =   1/8
 という計算により、8分の1となります(民法1028条2号)。

Q3 (上記のケースで)父が死亡した事実を死亡後3年経ってから知りました。 遺留分を長男に請求することはできますか?

請求できます。
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、①相続の開始及び②減殺すべき贈与・遺贈があったことを知ったときから1年間これを行わなかったときは、時効によって消滅するとされています(民法1042条前段)。①と②を知らなくても、相続開始(被相続人の死亡)のときから10年を経過すると、やはり消滅します。
本件のケースでは、父が死亡してから既に3年が経過していますが、長女は①相続の開始を知らなかったのですから、時効は進行しておらず、また相続の開始から10年も経過していませんので、請求できることになります。