遺言(遺言書)は法律で作成方法が決まっているため、無効になるケースもあります。
この記事では,遺言が無効となる事例について解説しますので、これから遺言を遺そうと考えている方や、遺言を発見した相続人の方などは、ぜひ参考にして下さい。

遺言が無効となるケースに注意

昨今では「終活」意識の高まりからか,遺言書を準備する方も多くなっていることと思われます。しかしながら,遺言は法律で書き方が決まっているなど制約もあり,せっかく準備したにもかかわらず無効になることもあります。
この記事では,遺言が無効となる事例について解説しますので、これから遺言を遺そうと考えている方や、遺言を発見した遺族の方などは、ぜひ参考にされて下さい。

1 遺言には3つの種類がある

いわゆる普通方式の遺言には,「自筆証書遺言」,「公正証書遺言」,「秘密証書遺言」の3種類があります(この記事では特別方式の遺言については省略します。)。

この内,主に利用されているのは「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の2種類です。
「自筆証書遺言」は遺言を自分の手で書く方法,「公正証書遺言」は公証役場に出向いて公証人に公正証書のかたちで遺言を作成してもらう方法になります。

ちなみに,令和3年に公正証書遺言が作成された件数は10万6028件だったそうです(参照:日本公証人連合会HP「令和3年の遺言公正証書の作成件数について」https://www.koshonin.gr.jp/news/nikkoren/yuigon2021.html)。

近年は年間10万~11万件程度で推移しているようですので,かなり多くの方が利用していることが分かります。

一方の自筆証書遺言については,その作成数を正確に知ることはできませんが,自筆証書遺言が発見された場合には遺言書の検認手続をする必要がありますので,(作成から検認まではタイムラグがあるとは思いますが)この検認の事件数がひとつの手がかりになります。

令和3年に全国の家庭裁判所に申し立てられた検認の件数は1万9576件とのことです(最高裁判所HP「令和3年司法統計年報 3家事編」https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/597/012597.pdf)。

公正証書遺言の作成数よりは少なそうですが,やはり多くの方に利用されているということが分かります。

2 無効になる例が多いのは「自筆証書遺言」

上記の通り,遺言には種類がありますが,無効になる例が多いのは「自筆証書遺言」になります。
自筆証書遺言は,紙と筆記用具,印鑑さえあれば誰でも気軽に作成できる一方,法律で決められた方式が守られていないことも多く,無効になりやすいのです。
以下,無効になる典型的なケースをいくつか紹介します。

⑴ 遺言作成日が「○年○月吉日」になっている

遺言書には、遺言書を作成した日付を書く必要があります。
これは、遺言者が亡くなった後、複数の遺言書が残っていた場合に、どのような順番で遺言書が作成されたのかを明らかにする必要があるからです。

このときに作成年月日について手紙や挨拶状で使用する「○年○月吉日」という記載がされてしまっていると、遺言書を作成した日付を特定することができません。

このため、遺言作成日について「○年○月吉日」としてしまうと無効になるのです(遺言書が1通しかない場合でも「吉日」としてしまうと無効になります。)。

遺言作成日を記載する際は、西暦でも和暦でも構いませんので、年・月・日を明確に記載するようにしましょう。

⑵ 署名・押印が無い、欠けている

遺言書には、遺言者が署名・押印をする必要があります。
署名、押印の両方が必要です。署名だけしかない場合や、押印だけしかない場合は無効になります。

また、平成31年の相続法改正で、遺言書に添付する財産目録についてはパソコン等で作成しても良いことになりました。

ただし、パソコン等で財産目録を作成した場合には、その全てのページに、署名・押印をしなくてはならないとされています。財産目録を作成して添付したことで安心してしまい、財産目録への署名押印をし忘れることがありますので注意が必要です。

また、この場合には、財産目録の全てのページに署名・押印が必要です。財産目録の最終ページにのみ署名・押印をしてあるという場合には無効となりますので、この点も注意しましょう。

ちなみに、押印に使用する印鑑は、実印である必要はなく、認印でも良いとされています。
しかしながら、遺言者が亡くなった後の争いをなるべく避けるためには、印鑑登録をしてある実印を用いて押印をしたほうが望ましいと言えるでしょう。

⑶ 本文もパソコン等で作成した

上記⑵でも少しふれましたが、平成31年の相続法改正によって、遺言書に添付する財産目録については、パソコン等での作成が認められるようになりました。

しかし、これは財産目録「のみ」の話です。

遺言書の本文については、変わらず自書する(手書きをする)必要があります。
昨今では手書きで文章を作成する機会も減ってきているかもしれませんが、遺言は法的な効力を生じる重要な法律行為ですので、誰が遺言を遺したのか明らかにするためにも、手書きが必要とされているのです。

遺言書本文は、必ず自書するようにしましょう。

⑷ 訂正の方法が間違っている

遺言は法的な効力を生じる重要な法律行為ですので、その内容を訂正(修正)する方法も法律で厳格に決められています。

民法第968条3項
自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

少し分かりづらいですが、

① 訂正したい(削除したい)文字を取消線・二重線・×印などで消す。
② 加筆したい(入れ替えたい)文字を挿入する。
③ 訂正・加筆をした場所に印鑑を押す。
④ 遺言書の末尾や余白などに、「何ページ何行目○字削除○字追加」「上記1中○字削除○字追加」等、場所と訂正・加筆内容を付記する。
⑤ ④の付記に署名をつける。

という、かなり大仰な方法をとる必要があります。
もちろん、修正液・修正テープの使用は認められていません。
この形式を守らずにされた遺言書の加除訂正は無効となりますので、遺言書の本文や財産目録を訂正する場合には注意しましょう(遺言書本文の長さなどによっては、一から書き直しをする方が簡単かつ不安が少ないかもしれません。)。

3 遺言能力が無い場合も無効となるが…

その他に、よく争いとなるのは、遺言者に遺言能力が無かったという主張です。
遺言をするには遺言能力(遺言の内容を考えたり、その遺言によってどのような法律上の効果が生じるのかが弁識できたりする、一定の判断能力のことです。)が必要です。

したがって、遺言を作成する際にこの遺言能力が無ければ、遺言の内容や遺言すること自体の意味を理解できていないことになりますから、遺言は無効となります。

しかし、遺言能力が無かったために遺言は無効であるという主張は、一筋縄ではいきません。

例えば、「おばあちゃんは認知症だったので遺言は無効だ」といったようなことをよく耳にしますが、認知症があれば一律に遺言能力が無く遺言が無効になるという関係にはなく、認知症の程度、遺言時の遺言者の状況・体調、遺言の内容(複雑な内容か、合理的な内容かなど)等、様々な事情が考慮されて遺言能力の有無は決せられますので、かなり難しい問題と言えます。

もし、遺言者の遺言能力に疑問があって遺言が無効である可能性がある場合には、一度弁護士までご相談頂くことをおすすめいたします。

4 遺言を無効とされないためには?

上記で見てきたように、自筆証書遺言は無効となるケースが散見されます。

遺される人のためにせっかく遺言書を作成したのに、これが無効になってしまうとなると、残念でもありますし、逆に紛争の種にもなりかねないということもあります。

そのため、ある程度複雑な内容の遺言書を作成しようとお考えの場合には、ぜひ「公正証書遺言」の活用をご検討ください。
公正証書遺言の場合は、公証人という専門家が遺言書を作成しますので、形式的な誤りを生じることはほとんどありません。

また、遺言者は公証人に対して遺言の内容を噛み砕いて説明する(これを「口授」といいます。)必要があります。このやりとりを介して、公証人は遺言者の遺言能力をある程度試していますので、公正証書遺言の場合は、後日遺言能力が無いと判断される確率がかなり下がります。
したがって、上記で述べたような遺言が無効となるケースを大幅に防ぐことができるのです。

しかし、公正証書遺言にもデメリットがあります。例えば、公正証書遺言の場合は、公証役場に実際に行って公証人と打合せや手続きを行う手間がかかりますし、公証役場に支払う手数料もかかってきます。

そして何より、遺言の内容(遺言書に記載する文言そのものではなく、財産をこういう風に分けたい等の具体的な方針)については、遺言者が自分で考えなくてはなりません。
公証人はあくまで遺言者に遺言の内容を説明してもらって、その通りになるように遺言書を作成する立場ですので、遺言の内容(分け方等)についてはアドバイスができません。

遺言を遺す際には特に遺留分への配慮が必要となる場合がありますので、ぜひ一度弁護士までご相談ください。
弁護士であれば、皆さまのご要望に最大限沿った遺言の案を考えたり、遺言の内容によっては将来のリスクもご説明することができます。また、公証役場でのお手続きのサポートも可能です。

遺留分について詳しくはこちら→「遺留分について」
遺言作成(公正証書遺言)プランについて詳しくはこちら→「遺言作成プラン」

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
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