紛争の内容

1 依頼者と相続人との関係

依頼者は、1960年代に、本件被相続人夫婦の長女として生まれましたが、両親が生後6か月の乳飲み子でありながら、親権者を父として、両親は離婚したそうです。

その後、実父は再婚し、再婚した後妻との間には妹が生まれました。

依頼者は、20年ほど前結婚しましたが、その10年後に実父はお亡くなりになりました。

依頼者は、このような生活を送る中で、実母とは再会することや交流することなく、60年以上位してきました。

2 市役所からの問合せ

2年前ころ市役所の高齢者の福祉を担当する係から、依頼者宛に、依頼者が当該老齢者の4親等内の親族に該当すること、成年後見人等の選任を行う必要がある云々として、意向調査を受けました。

この問い合わせに対して、依頼者は、自分は生後5カ月位で、別れて以来交流がなく、問合せの手続内容が理解できないため、その申立を行うことはできないこと、しかし、市役所がそれが必要とするのであれば、申し立てに同意するとの回答をしました。

依頼者は、その手紙の写しを手元に置いていました。

3 警察署からの問合せ

その翌年、埼玉県警刑事課から、依頼者の実母が亡くなった状態で発見されたこと、遺体の引き取りの意向を確認する書面が、実母が死亡したとする2週間後に、依頼者のもとに届きました。

これに対しても、依頼者は、実母とは生後5カ月で別れてから、交流がないことを理由に、遺体を引き取る意思はない旨回答しました。

4 市役所からの問合せ

更にその1年後、市役所より、固定資産現所有者申告書の提出を求める書類が届きました。依頼者は、実母が固定資産を保有していることをこの通知で初めて知ったそうです。

その市役所の通知には、相続放棄などの手続が済んでいる場合には、相続放棄申述受理証明書のコピーを求める内容でした。

当時、依頼者は、確定申告を依頼している地元の税理士に相談したところ、相続放棄などの手続は税理士は行えないから、弁護士に相談依頼した方がよいとして、当事務所を紹介されたとのことでした。

当申立手続代理人弁護士を紹介された。

そこで、法律相談に来所され、相続放棄申述の申立について、弁護士に正式に依頼しました。

5 依頼後の1か月後、滞納マンション管理費を求める通知

実母が所有していたとされるマンション管理組合の代理人弁護士から、実母が亡くなったとき以降の管理費及び修繕積立金が未納となっている旨、それを支払うよう求める通知を受けました。

これに対しては、そのマンション管理組合代理人弁護士の法律事務所に、現在、家庭裁判所で相続放棄の手続の申立準備中であることを伝えました。

5 相続放棄の熟慮期間の起算点について

このような事情があるため、相続人が本件相続について、相続放棄をするか否かを検討する、熟慮期間の起算点は、実母の居住していた市役所から、被相続人である実母の固定資産の現在の所有者の申告を問う通知を受けた時点が、依頼者が、初めて「相続人であること及び相続財産(マンション)のあることを知った」ものであるから、その起算点は、その通知を受けたときから3か月以内と解することになります。

本事例の結末

被相続人の死後(相続発生後)、形式的な3カ月の熟慮期間の経過後の申立ての場合、申立てを受け付けた家庭裁判所から、申立人本人宛に、より詳細な事情の報告を求める旨の照会書が届くのが通例です。

今回は、そのような照会もありませんでした。

申立をしてから1か月近くなっても、裁判所から連絡がなかったため、問い合わせをしましたところ、年度末の申立て事件が多数あり、多忙であること、確かに受け付けていることから、お待ち願いたいとの連絡を受けました。

心配している依頼者にもその事情を説明する報告書を送付差し上げました。

その後さらに数週間かかりましたが、めでたく、本相続放棄申述が受理され、相続放棄が認められ、相続人でなくなったということになります。

依頼者からの求めにより、その受理の証明書の交付を申請しました。

本事例に学ぶこと

生後間もなくして、両親が離婚し、養育を担わなかった実母と60年以上も交流がないという、事情のある方でした。

60年後に、それも隣接した市役所から、「あなたは、成年後見申立て権のある親族に該当します。あなたは実母の成年後見を申立てますか」という意向調査の書類が突然届いて、依頼者は驚きました。

さらに、その翌年には、亡くなった実母を発見したとする警察署からの連絡、そして、その翌年には、市役所から固定資産の現在の所有者の申告を求める通知が次々と送られ、穏やかな生活を営んでいた依頼者はどうしたらよいのかわかりませんでした。

しかし、その時、仕事の関係で確定申告依頼の税理士に相談したところ、当事務所を紹介され、スムーズに相続放棄の手続をとることができました。

当事務所を紹介してくれた税理士の先生は、当事務所と懇意にしている先生です。

税理士の先生から紹介された当事務所に相談に見えらえる方もいます。

また、当事務所のホームページを見て、当事務所に、まずは電話での相続相談をされ、そして、ご来所での相談を受けてもらい、ご依頼に至る方もいらっしゃいます。

特に、被相続人の相続発生後の3カ月以上経過した時期に、今回のような市役所からの通知、マンションの管理組合代理人弁護士の通知が来ると、「相続放棄は被相続人が死んでから3か月以内にしなればならない」という断片的な情報をお持ちの方こそ、いまさらになってどうしたらよいのだろうと悩まれる方がほとんどです。親族がお亡くなりになった時点から、3カ月以上経過しての、被相続人名義の財産の調査、滞納金の支払催促の通知などを受けた方は、まずは、当事務所の電話での相続相談を受け、さらには、対面での法律相談を受けて、相続放棄の手続をとることの可否のアドバイスを受けることをお勧めします。

弁護士 榎本 誉