成年後見制度を利用すると仕事を失う?―被保佐人を警備員から一律に排除した規定を違憲とした最高裁判決

※本記事は、さいたま市大宮区にある弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の相続集中チームの弁護士が執筆しています。

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない方の財産や生活を守るための制度です。

ところが、成年後見制度を利用することによって、「仕事を辞めなければならないのではないか」「資格を失うのではないか」と心配される方もいます。

この点について、最高裁判所大法廷は2026年2月18日、被保佐人であることを理由として警備員になることを一律に認めなかった当時の警備業法の規定について、憲法に違反するとの判断を示しました。

本判決は、成年後見制度を利用しているという形式的な理由だけで、本人の職業や社会参加を制限してよいのかを考える上で、重要な判決です。

成年後見制度には「後見」「保佐」「補助」がある

成年後見制度には「後見」「保佐」「補助」がある

成年後見制度とは、判断能力が十分ではない方について、家庭裁判所が成年後見人、保佐人または補助人を選任し、本人を法律的に支援する制度です。

改正法が施行される前の現在の制度では、本人の判断能力の程度に応じて、主に次の3つに分かれています。

「後見」は、判断能力が欠けているのが通常の状態にある方を対象とします。

「保佐」は、判断能力が著しく不十分な方を対象とします。

「補助」は、判断能力が不十分な方を対象とします。

今回の裁判で問題となったのは、このうち「保佐開始の審判」を受けた被保佐人です。

ただし、被保佐人になったからといって、本人があらゆる判断や仕事をできなくなるわけではありません。

保佐制度は、主として重要な財産上の行為について本人を支援する制度です。その人が特定の仕事を行う能力を持っているかどうかとは、別に判断されるべき問題です。

どのような事件だったのか

どのような事件だったのか

原告となった男性には軽度の知的障害がありましたが、警備会社に雇用され、交通誘導に関する警備業務に従事していました。

ところが、2017年3月、男性について保佐開始の審判が確定しました。

当時の警備業法には、被保佐人であることを警備員の欠格事由とする規定がありました。そのため、男性の雇用契約は終了し、男性は会社を退職することになりました。

男性は、被保佐人というだけで警備員の仕事から一律に排除する法律は、職業選択の自由を保障した憲法22条1項と、法の下の平等を保障した憲法14条1項に違反すると主張しました。

また、国がこの規定を長期間改正しなかったことについて、国家賠償を求めました。

最高裁は「一律に排除する規定は違憲」と判断

最高裁は「一律に排除する規定は違憲」と判断

最高裁は、被保佐人であることを警備員の欠格事由とする規定について、男性が退職した時点では、憲法22条1項および憲法14条1項に違反する状態になっていたと判断しました。

警備業務は、他人の生命、身体、財産などを守る仕事であり、警備員に一定の認知能力、判断能力および意思疎通能力を求めること自体には合理性があります。

最高裁も、警備業務を適正に行う能力のない人を一定の場合に排除するという法律の目的そのものは、重要な公共の利益に合致すると評価しています。

問題は、その判断方法です。

当時の規定は、本人が実際に警備業務を行う能力を持っているかどうかを個別に確認することなく、「被保佐人である」というだけで、全員を警備業務から排除するものでした。

最高裁は、このような規制について、単に仕事のやり方を制限するものではなく、警備員という職業を選択すること自体を禁止する強力な制限であると指摘しました。

成年後見制度の利用と職業能力は同じではない

成年後見制度の利用と職業能力は同じではない

保佐開始の審判は、精神上の障害によって、財産上の重要な事柄を判断する能力が著しく不十分な場合に行われます。

しかし、財産を管理するための判断能力と、特定の警備業務を行うために必要な能力は、必ずしも一致しません。

例えば、大きな金額の契約や不動産の売買を一人で判断することが難しい方でも、決められた勤務場所で交通誘導を行う能力を十分に備えていることはあります。

にもかかわらず、被保佐人という法的な立場だけを理由として、一律に警備員になることを禁止することは、実際には警備業務を行う能力を持っている人まで排除することになります。

さらに、当時の警備業法には、心身の障害によって警備業務を適正に行うことができない者について、個別に適格性を判断する別の規定も存在していました。

警察庁も、この個別審査の規定があるため、被保佐人を一律に排除する規定を削除しても特段の影響はないと評価していました。

最高裁は、このような事情を踏まえ、警備業務に必要な能力を備えた被保佐人まで一律に排除する不利益は、もはや看過できないものになっていたと判断しました。

そして、男性が退職した時点では、被保佐人を一律に排除する規定は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置とはいえなくなっていたとして、違憲との結論を示しました。

法律が違憲でも、国家賠償は認められなかった

法律が違憲でも、国家賠償は認められなかった

もっとも、最高裁は、男性の国に対する損害賠償請求については認めませんでした。

法律の規定が憲法に違反しているからといって、国会がその法律を改正しなかったことが、直ちに国家賠償法上も違法になるわけではありません。

立法の不作為について国家賠償が認められるためには、法律が憲法に違反することが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期間にわたって改正を怠ったといった、例外的な事情が必要です。

最高裁は、男性が退職した時点では規定が違憲になっていたものの、その違憲性が国会にとって明白であり、国会が正当な理由なく長期間改正を怠ったとまではいえないと判断しました。

したがって、本判決の結論は、次のように整理できます。

旧警備業法の規定は違憲でしたが、国に損害賠償責任までは認められませんでした。

なお、被保佐人であることを警備員の欠格事由とする規定は、2019年に成立した一括整備法によって既に削除されています。

この判決が成年後見制度の利用者に与える影響

この判決が成年後見制度の利用者に与える影響

本判決から重要なのは、成年後見制度を利用していることと、本人が具体的な仕事や社会生活を行う能力があるかどうかを区別しなければならないという点です。

後見、保佐または補助の審判を受けたという事実だけで、「仕事ができない」「責任のある立場には就けない」と決めつけることは適切ではありません。

成年後見制度は、本人から一律に権利を奪うための制度ではなく、本人に必要な範囲で支援を行い、その権利や利益を守るための制度です。

もっとも、本判決は、旧警備業法という法律の規定が憲法に違反するかを判断したものであり、民間企業による全ての採用判断や雇用終了を直接違法と判断したものではありません。

実際の雇用問題では、業務の内容、本人の能力、必要な配慮、配置転換の可能性、就業規則や雇用契約の内容などを個別に検討する必要があります。

それでも、成年後見制度の利用という形式的な事情だけで不利益を与えるのではなく、本人の具体的な能力や状況を個別に確認すべきだという本判決の考え方は、企業の採用や労務管理にも大きな意味を持つものと考えられます。

成年後見制度そのものも見直される方向です

成年後見制度そのものも見直される方向です

2026年に成立した民法等の改正法では、従来の後見および保佐を廃止し、本人に必要な範囲で権限を設定する補助制度に一元化することなど、成年後見制度の大幅な見直しが行われました。

【法務省ホームページより一部引用】
民法等改正法は、成年後見制度について、後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化して本人にとって必要な範囲でその利用を可能とすることや、遺言制度について、電子データ等で作成し、法務局において保管する保管証書遺言を創設することなどを内容として民法等を改正するものです。
  また、整備法は、民法等改正法による後見の制度の廃止に伴い、成年被後見人を対象とする規定を削除し、又は特定補助人を付する旨の審判を受けた者を対象とする規定に改めることなど、関係法律について所要の整備等をするものです。  

本人に必要な事項について代理権・取消権を付与する制度(補助の制度)に一元化し、後見・保佐の制度を廃止・事理弁識能力を欠く常況にある者は、法定の重要な財産行為の取消権の仕組み(特定補助の仕組み)を選択することが可能

主要な改正部分は、公布の日から2年6か月以内の政令で定める日に施行されることになっています。

この改正も、本人の判断能力を画一的に分類して広範な権利制限を課すのではなく、本人に本当に必要な範囲で支援を行うという方向性を示しています。

今回の最高裁判決と成年後見制度の改正には、いずれも、成年後見制度の利用者を単なる「保護の対象」として扱うのではなく、権利を持つ一人の個人として尊重するという共通した考え方があるといえるでしょう。

ご相談・ご質問

ご相談・ご質問

成年後見制度は、本人の財産管理、介護施設との契約、不動産の売却、遺産分割など、さまざまな場面で必要となることがあります。

一方で、一度申立てをすると、家庭裁判所の許可がなければ申立てを取り下げることができず、選任された後見人等は家庭裁判所の監督を受けながら継続的に事務を行うことになります。

制度を利用するべきか、法定後見と任意後見のどちらが適切か、誰を後見人等の候補者とするかについては、本人の判断能力、財産状況、家族関係、必要な手続などを踏まえて検討する必要があります。

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所では、成年後見、財産管理、遺産分割その他の相続問題についてご相談をお受けしています。

友達登録して、お気軽にお問い合わせください。

ご相談

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。
また、各分野について専門チームを設けており、専門チームの弁護士は、各担当分野について知識・経験とも豊富で、大きな強みを持っています。まずは、一度お気軽にご相談ください。

この記事を書いた弁護士:弁護士 申 景秀

相続

弁護士法人グリーンリーフ法律事務所所属、埼玉弁護士会所属。
獨協大学法科大学院を卒業し、司法試験を70番台という高順位で合格。札幌での司法修習を経て、相続・遺言を含む民事分野を幅広く取り扱っている。遺産分割協議や遺留分侵害額請求など、親族間の複雑な紛争解決に対応。緻密な事案分析と丁寧なヒアリングに基づき、円満かつ適正な遺産承継の実現に尽力している。