
近年、不動産登記に関する法律に改正があり、相続分野に関係する制度にいくつかの変更がありました。今回ご紹介するのは、不動産の住所等の変更登記の義務化と、所有不動産記録証明制度についてです。
以下詳しく解説します。
1 登記を見れば所有者が分かる?

皆様はご自身やご実家の土地建物の登記を見たことがあるでしょうか。
不動産の登記には、その不動産の権利関係が記載されています。
記載されている権利関係は大きく二つに分けられます。
ひとつが不動産の所有権に関する情報で、もうひとつが抵当権などの所有権以外の権利に関する情報です。
今回最初にご紹介する「住所等の変更登記の義務化」とは、その名のとおり、不動産の所有者の住所などの情報に変更があった場合には、その変更を確実に登記にも反映させなさい、という義務の新設になります。
では、そもそもなぜこのような義務が制度として新設されたのでしょうか。
近年の不動産登記法の改正は、現実問題として「登記を見たとしても不動産の所有者が誰だか分からない」という事態が生じている、という問題意識から来ています。
上記のとおり、不動産の登記にはその所有者の情報を載せる部分が存在します。
しかし、不動産の所有者は、譲渡や売買、贈与、それから相続などによって、どんどん移り変わっていきます。
そういった「イベント」ごとにきちんとその所有権移転の事実を反映させないと、そのうち誰が真の不動産所有者であるのか分からなくなってしまうことがあり得ます。
実際、相続でいえば、何世代か前の代で相続が生じた際に、その不動産の所有権の移転についてきちんと登記しなかったがために、その後時間が経ち、事情を知る人物が亡くなり、あるいは忘れ去られ、数代後になって結局誰が不動産の所有者であるのか判然としないという状態が生じることがままありました。
不動産の所有者が分からなくなると、その不動産に関して何か問題があったときや、その不動産を買い上げて何か活用しようとするときに、誰にその許可や交渉を持ちかけたら良いか分からず、不都合が生じてしまうということになります。
そのような事態を防ぐために、「登記を見ればその所有者が確実に分かる」という状況を作り出す(取り戻す)必要がありました。
そこで、近年の不動産登記にかかわる法改正によって、確実に不動産の所有者の変更を反映させるための様々な改正・制度の新設がなされたというわけです。
既に施行されている相続登記の義務化もそのひとつとなります(相続登記の義務化についてはこちらの記事をご参照下さい。)。
そして、今回ご紹介する住所等の変更登記の義務化もその一環となります。
2 住所等の変更登記の義務化とは

住所等の変更登記の義務化とは、(そのままではありますが)不動産の所有者について、氏名の変更または住所の変更があったときは、その変更の日から2年以内に、その変更を登記に反映しなくてはならないという義務を課すものです。
例えば、引っ越しをして住所が変わったときや、結婚をして改姓があった場合などがこれが当たるものと思います。
もし万が一、正当な理由がないのにこの申請を怠った場合には、5万円以下の過料の適用対象となるとされています。
なお、今回の改正より前に住所の変更があり、未だ変更登記はしていないという場合にも、この義務の対象となります。
この場合には、施行日である令和8年4月1日の2年後である、令和10年3月31日までに変更登記をする必要があります。
3 住所等の変更登記の方法

変更登記の方法ですが、従来どおり、変更登記を入れるというのが王道の方法となります。
法務局のHPを参考にご自身で手続きをしても良いと思いますし、司法書士に依頼するという手もあります。
参考:法務局HP「登記されている住所・氏名に変更があった方へ」
しかし、 例えば転勤が多い職種で引っ越しの度に所有する不動産全てについて変更登記をするのは難しいという方など、住所等の変更がある度に手続を行うことをご負担に感じる方もいらっしゃることでしょう。
そういった方に朗報ですが、今回この改正に合わせて、不動産登記に関して便利な制度が始まりました。
それがいわゆる「スマート変更登記」と呼ばれる制度です。
4 スマート変更登記サービスとは

スマート変更登記とは 、一度法務局で手続きをすると、その後住所等の変更があったとしても、法務局が職権で住所等を変更してくれるというサービスです。
具体的には、一般の個人の方の場合は、法務局に対して「検索用情報の申し出」というものをすることになります。
検索用情報の申し出は、「かんたん登記申請」のホームページで申請するか、新しく所有者になった場合はその登記をする際に登記の申請書に記載して申請するということもできます(書面での申し出もできるそうですが、この場合は、管轄の法務局が決まっていますのでご注意ください。)。
もし「かんたん登記申請」のホームページで手続きをする場合は、所有者の名前、住所、 生年月日、メールアドレス、所有している不動産の地番などの情報を入力することになるそうです。
ちなみに、 ウェブ上の手続きですが、電子証明書は不要とされていますので、誰でも利用可能かと思います。
法務局は、定期的に住基ネットに照会をかけて、住所等の変更の有無を確認します。
そして、もし住所等の変更があった場合には、検索用情報の申し出の際に登録したメールアドレスに対して、「登記の情報を変更して良いですか?」と確認メールを送ってくれるのだそうです。
そのメールに対して、「変更登記をして良い」と回答をすると、法務局が順次職権で変更登記をするという流れになっています。
自身で法務局に書類等を提出する必要がありませんから、これは大変便利なことだと思います。
このスマート変更登記サービスを利用するかは各自の状況に合わせてご判断頂ければと思いますが、いずれにせよ、住所等に変更が生じた場合には登記上の住所等も変更しなくてはならなくなったのだと、頭の片隅に置いておいて頂ければと思います。
5 待望の『登記情報の名寄せ』

さて、次に紹介するのは「所有不動産記録証明制度」についてです。
これは、ひとことで言えば、被相続人名で登記情報を名寄せすることができる制度です。
この制度がなぜ「待望」だったのか、少し制度背景をお話します。
誰かが亡くなったときには相続が発生します。
例えば遺言書があり、そこに財産目録があれば、遺産調査の手がかりとしては十分です。
しかし、遺言書がなく、同居親族などもなく、相続人にとって被相続人の財産状況が分からないという相続の場合、遺産の調査はかなり難航します。
そのうち不動産については、自宅の住所地や実家・地元の住所地、生前何らかの縁故のあった土地の地方自治体(市役所等)に対して問い合わせたり、固定資産税の納税通知書を必死に調べたりして、何とか調査をするというのが実情でした。
そうというのも、今となっては日常生活でも当たり前となった「検索」という行為が、登記についてはできなかったのです。
不動産の所在地を指定して登記をとることはできるのですが、不動産所在地が不明のまま所有者名を指定して登記をとることはできません。
すなわち、「被相続人名義の不動産を検索してリスト化したい」と思っても、その手段がありませんでした。
このために、上記のように被相続人に近しい人物がおらず被相続人の財産状況が分からないという場合はもちろん調査そのものが大変でしたし、そうでなくとも「実は家族に内緒で土地を買っていた」「家族には特に話していなかったが出身地にある先祖由来の土地の名義を持っている」などという場合には、相続人の思いもよらない場所に遺産となる不動産があることになり、相続手続きから漏れてしまうということが現実にありました。
そうすると、相続手続がされず、所有者の名義が故人(被相続人)のまま放置されるという事態が生じ、これが所有者不明土地という問題に繋がっていくという状況でした。
6 所有不動産記録証明制度とは

そこで、今回新たに始まったのが「所有不動産記録証明制度」です。
この制度は令和8年2月2日から施行されていますから、もうすでに利用することのできる制度となっています。
この制度によって、被相続人の氏名とその住所の情報によって、不動産の検索が可能となりました。
具体的には、①不動産の所有者(登記上の名義人)、または②その相続人や一般承継人が請求権者となり、書面を法務局に提出して手続きをするか、オンライン上で手続きすることになります(こちらの手続きの場合、オンライン申請には電子署名が必要なようです。)。
実際に検索を行うのは法務局で、検索結果を記した書面が交付されるという仕組みになっています。
必要書類としては、本人確認書類や印鑑登録証明書(請求書に実印を押します。)、相続人の場合は自身が相続人であることを示す戸籍謄本等が必要となります。
これらは相続の場面では必ず必要となってくるものですので、特に問題なく集められるものと思います。
また、手数料として、検索条件1件につき1通当たり1470円〜1600円の収入印紙を収めることになります。
この制度を利用すれば、例え所有不動産が全国に散らばっていたとしても、一挙にその存在の情報を得ることができます。
そのため、相続の場面で遺産である不動産を見逃すという事態は、格段に防ぎやすくなったといえると思います。
7 所有不動産記録証明制度の弱点

ただし、この制度にも弱点もあります。
まず、この検索は、あくまで登記上の情報しか検索することができません。
すなわち、例えば未登記の建物や土地がある場合は、その不動産についてはこの証明制度によって把握することができないということです。
そのため、特に未登記の建物など、心当たりがある場合には、市役所等から名寄帳を取り寄せるなどして、その存在を把握しなければなりません。
また、売買契約書や権利証など、アナログの資料がある場合には、それらと所有不動産記録証明書を対照して漏れがないか確かめる必要があるでしょう。
このように、今後も従来の調査手法とこの証明制度を併用していく必要が一定程度残るように思います。
次に、おそらく皆様も日々実感されることもあると思いますが、「うまく検索に引っかからない」ということがあり得ます。
上記のとおり、検索には氏名と住所の情報を利用します。
そのため、「過去に氏名や住所の変更があったが登記上反映されていない」とか「登記上の氏名や住所に実は誤りがあった」というような場合には、抽出されないことがあり得ます。
逆に(あまり無いこととは思いますが)同姓同名で住所も市区町村まで同じというような場合には、その被相続人所有の不動産ではなかったとしても、検索上抽出されるということもあり得ます。
このとおり「検索」という行為(システム)の性質上の限界があり、完璧な抽出というわけにはいかないということがあります。
そうとはいえ、検索結果を記載した所有不動産記録証明書の記載内容が、遺産調査の場面でかなり便利で有用な制度であるということは間違いありませんから、必要を感じた方はぜひ利用してみてください。
なお、本制度は上記でも述べたとおり請求権者が制限されており、実際には相続の場面以外では利用されない(できない)ものと思われます。
例えば貸したお金が返ってこないので相手の所有不動産を調べたいなどという場面ではこの制度を使うことはできませんので、その点は覚えておいて頂ければと思います。
8 まとめ

いかがだったでしょうか。
今回は、近年の不動産登記にかかわる新制度をご紹介しました。
前半ご紹介した住所等の変更登記義務は、(一応)過料を伴う義務ですので、ぜひ忘れないようにして頂ければと思います。
また、後半ご紹介した所有不動産記録証明制度は、遺産調査の場面でとても有用ですので、こちらもぜひ覚えておいて頂ければと思います。
相続において、登記上の情報が最新かつ正しいものであるというのは重要なことですし、被相続人名で名寄せができるというのは非常に便利です。これらの制度を利用して正しく遺産状況を把握し、より正確な相続手続きや遺産分割に繋げていくことができると期待しています。
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