紛争の内容
妻Aさんが亡くなり、夫のBさんが相続人となりましたが、AB夫婦には子供がいなかったため、Aさんの兄弟姉妹5名(C氏、D氏、E氏、F氏、G氏)も相続人となりました。
Aさんの遺産は自宅の共有持分(評価額800万円程度)と預貯金が200万円程度で、遺言書はありませんでした。
Bさんは、C氏ら5名に連絡を取り、遺産分割協議を試みましたが、平素から疎遠であったこともあり、話し合いはうまくいきませんでした。また、相続人のうちG氏はアメリカに住んでおり、そもそも連絡が取りにくいという問題もありました。
Bさんからの依頼を受け、遺産分割の調停を申し立てることとなりました。

交渉・調停・訴訟などの経過
Bさんの希望は、現に住んでいる自宅の共有持分を単独で取得したいというものでした。

他の相続人のうちD氏とF氏は理解を示し、「自分の相続分はゼロで構わない」と言ってくれましたので、相続分をBさんに無償譲渡する旨の譲渡証明書に署名・押印してもらい、家庭裁判所にその旨を届け出て、手続きから排除する決定を出してもらいました。

C氏とE氏は、「法定相続分相当額を金銭で支払って欲しい」との意向でしたので、Bさんから各50万円を支払うことにしました。

残るアメリカ在住のG氏も、「今回の相続は遠慮したい。Bさんが全て取得してくれて構わない」との意向でしたが、D氏・F氏のように相続分譲渡証明書を作成しようとすると、印鑑登録のないアメリカではサイン証明を取らねばならず、その手続きが煩雑になってしまいます。
そこで、調停官(裁判官)と相談のうえ、G氏には、意向(相続分はゼロで構わない)を書いた書面を裁判所に国際郵便で郵送してもらい、調停に代わる審判を裁判所に出してもらうことにして、手続き的な問題点をクリアすることにしました。

本事例の結末
調停成立(正確には、調停に代わる審判)。
「Bさんが自宅の共有持分を含め全ての遺産を単独で取得する。Bさんから、C氏・E氏に対して、代償金として各50万円を支払う」との内容。

本事例に学ぶこと
本件では、相続人の中に国外在住の方がおり、弁護士から連絡してもなかなか返事がもらえず、その意向を書いた書面を取り付けるのも一苦労でした。
日本国内であれば、相続分譲渡証明書にその人の印鑑登録証明書を添付することで排除決定をいただくことができますが、国外在住の方だとそう簡単にはいきません。
もともと本件のような遺産分割を当事者間の協議だけでまとめるのは困難であり、手間はかかっても弁護士にご依頼された甲斐があったのではないかと思います。

弁護士 田中智美