紛争の内容
韓国籍のA氏は、同じく韓国籍の妻B・娘Cと日本国内で暮らし、小さな会社を経営していたが、突然の病で急死。
その後、BとCが相続放棄したため、日本国内には相続人がいない状態となった。
A氏の遺産として不動産(自宅土地・建物)があったが、まだ多額の住宅ローンが残っている状態であり、住宅ローン債権者であるD銀行からの申立で、相続財産管理人に選任された。

交渉・調停・訴訟などの経過
①韓国国内にA氏の相続人となるべき者がいるのではないか?
B・Cの相続放棄によって日本国内にはこれ以上相続人がいないことは明白であったが、A氏の他の親族が韓国で健在であれば、その者が相続人となる可能性がある。
そこで、韓国国内の親族の有無を調査するため、相続財産管理人から韓国大使館に対して、A氏の家族関係証明書(日本でいう戸籍関係書類)を発行してくれるよう何度も請求したが、韓国大使館の回答は「応じられない」の一点張りであった。そのため、A氏の親族関係を洗い出す糸口さえ掴めず、韓国国内の相続人の有無については「不明」とせざるを得なかった。
②自宅不動産の売却方法
D銀行は相続財産管理人の選任を申し立てるのとほぼ同時に、抵当権を有している自宅不動産につき強制競売の申立をしていた。相続財産管理人としては、遺産をなるべく高値で換価するため任意売却の方法によるべきとも思われ、また、D銀行からも、同様に任意売却に移行できないか打診をもらっていた。
しかしながら、①のとおり、韓国国内にA氏の相続人がいるかどうか不明な状態では、任意売却の方法を取ることはリスクがあり(仮に、韓国国内にA氏の相続人が存在した場合、後になって、売却価格に異議を唱えてくる可能性等を考慮)、裁判所を通した法律上の手続きで売却・換価された形にしておかなければならないだろうと判断をせざるを得ず、そのまま強制競売を続行してもらい、売却・換価をおこなった。

本事例の結末
A氏の遺産であった不動産を強制競売の形で換価したものの、D銀行に対する債務全てに充当するには足りず。未払税金等の他の負債もあったが、預貯金などの財産を合わせても弁済に回せるものがなく、これ以上相続財産管理人としてなすべき業務がないため、事件終了となった。

本事例に学ぶこと
本件のように被相続人が韓国籍の方の場合、韓国国内に存命している親族で相続人となるべき者がいないかどうか調査することが必要であるが、その足掛かりとなる戸籍関係書類の取寄せには高いハードルがあることを痛感させられる事案であった。