紛争の内容

(1)被相続人の三男からの通知

依頼者は、被相続人より先に亡くなった長男の長男、つまり、お孫さんです。

依頼者の両親は離婚し、未成年者である依頼者とその弟は、母方についていきました。

よって、父方の祖父とは長らく疎遠でした。

亡父の弟である三男の方より、父方の祖父の死亡と、その相続財産の一覧が送られ、被相続人の意向は、すべての相続財産を三男が相続することだったから、同封した遺産分割協議書に応じられたいというものでした。

(2)法律相談

依頼者は、実父の相続について、既に当事務所に依頼したことがある方でした。

実父は、依頼者の実母と離婚後、再婚し、都内のマンションや一切の財産を再婚した後妻である配偶者に全部相続させるという公正証書遺言を残しており、当時の制度である遺留分減殺請求事件の対応を当事務所に依頼したことがある方でした。

その方が、新たな相続問題が発生したとして、法律相談に見えられたのでした。

被相続人である父方の祖父とは疎遠でしたので、依頼者は祖父の経済状態を知りませんでした。

(3)信用情報調査、そのための、熟慮期間伸長申立て

叔父でもある被相続人の三男の方からの通知で、遺産分割協議を進めると、被相続人が債務超過であった場合、取り返しがつかない恐れがあると心配されていました。

そこで、叔父から連絡をいただいた、不動産、預金残高以外の被相続人の相続財産の調査を進めるとともに、全銀協、JICC、CICという、信用情報機関への調査をすることになりました。

相続人本人が調査するのが簡便ではあるのですが、依頼者は、多忙であるので、これも弁護士に依頼をしたいということでした。

各信用情報機関への委任状は、相続人の一人であることを示す戸籍関係書類と、同相続人自身の身分証明書類、そして、実印の押印と、印鑑証明書が必要となります。

また、都内にある不動産の評価額を調べるために、都税事務所に固定資産評価証明書の取得をしますが、これも、手間暇かかるものです。

よって、相続発生後の3か月以内に、調査結果判明が困難と見込まれましたことから、東京家裁で、更なる3か月の熟慮期間の伸長を求めました。

信用情報機関から回答は、被相続人の負債は特に確認されませんでした。

また、この回答には、保証債務については、被相続人が保証債務の有無まで掲載することを申告している場合、これはつまり、自身の融資枠が制限されることも意味しますので、多くの方は、その申告をしていないことから、保証債務の有無はわからないという留保付きです。

(4)共同相続人に対する情報提供要請

この調査結果を受けて、依頼者は、相続を承認することを選択しました。

また、叔父から提供を受けた財産状況で不明な点、特に、葬儀費用の内訳、香典の有無、その金額、そして、他の金融機関の有無を叔父の方に問い合わせました。

叔父の方からの回答は、生前に、複数の金融機関の預貯金を解約し、ゆうちょ銀行に集約した。

ゆうちょ銀行のみであること、葬儀費用の支払い明細は廃棄済みであるが、その明細は、手控えメモから引き写した。香典は列席者も多くなく、報告した程度であり、全額を葬儀費用に充てたとの説明がありました。

同じく、被相続人の長男の代襲相続人である二男の代理人弁護士とも確認しました。

同代理人は、葬儀費用は喪主が負担すべきもので、遺産で賄うものはいかがなものか、場合によっては、遺産分割調停も辞さないという勢いでしたが、特に申立て準備をするそぶりも示していませんでした。

(5)遺産分割協議書案の提案

当方依頼者と協議し、弟の意向が不明であるため、依頼者の意向を反映した遺産分割協議書案を作成し、共同相続人である三男、二男に提案しましょうということになりました。

①遺産不動産については固定資産評価額を0.7で割り戻した算定額を基礎に、法定相続分相当の代償金支払いを求める。

②遺産預金については現在高の法定相続分を、やはり、預金全部を三男が取得し、その法定相続分相当額を代償金として支払ってもらう。

③葬儀費用を相続財産で賄ったことは承認する。

④遺産不動産の管理費用は同不動産を取得する三男の負担とする。

⑤合意成立後、3か月内に代償金を支払ってもらう。

上記を骨子として、叔父である次男、三男に提案したところ、両名より承諾を得ました。

(6)代襲相続人二男代理人への提案

叔父らの承認を得たうえで、依頼者の弟の代理人に、遺産分割協議書案で内諾を得たが、そちらの依頼者は応じられるか確認されたいと申し入れました。

結果、同分割案に応じると回答がありました。

本事例の結末

遺産現物を全部取得する三男の方からの提案で、合意書取り交わし時に100万円の代償金の一部を維持地金として支払、その後、遺産不動産の相続登記を完了したら、代償金の残額を支払うこととしたいとあり、その条件をのみました。

そこで、その内容で改訂した遺産分割協議書を相続人4人分作成し、まず、代襲相続人2名が署名押印し、印鑑証明書を三男の方に送付しました。

4通の遺産分割協議書に、全相続人が署名押印し、そのうち2通が代襲相続人らに返送されるとともに、一時金100万円が送金されました。

その後、相続登記完了を待ち、残金送金を済ませた旨のメール連絡があり、送金口座の着金を確認しました。

本事例に学ぶこと

両親の離婚などにより、父方の祖父母などと疎遠となる相続人がおります。

やはり、訴円となった叔父などの共同相続人から、一方的な連絡を受けると、その内容をすぐに信じることができず、警戒されるのは当然です。

このような場合、相続人が心配するのは、被相続人には多額の負債があるのではないか、債務超過なのではないかということです。

被相続人の生活ぶりも知らず、その財産状況を全く知らないのですから、無理もありません。

しかし、その負債の調査も、すぐにはできません。

信用情報機関の調査でも万全とはいえませんし、相続を選択し、遺産分割協議書案を提案してくる共同相続人への事情聴取も不可欠です。

特に疎遠であった親族への問合せをすることに気が引けるというのも理解できます。

このようなときに、代理人弁護士に相談、依頼し、それらを行わせるというのも、賢明な選択といえます。

まずは、当事務所への電話での相続相談をお受けになることをお勧めします。

弁護士 榎本 誉