紛争の内容 
ご依頼者様(地主)は、長年にわたり土地を貸していましたが、借地人の方が高齢となり成年後見制度の適用を受けられました。

ご依頼者様は、老朽化した建物の建て替えや土地の有効活用を検討しており、借地権の解消(買取り)を希望されていました。

しかし、借地権は借地人の方の重要な財産であり、その成年後見人との交渉は、家庭裁判所の許可も要するなど慎重に進める必要がありました。

交渉・調停・訴訟等の経過 
当初、成年後見人からは、周辺の取引事例を基にした高額な買取額が提示されました。

これに対し、当職は、対象不動産の立地条件、建物の老朽化の程度、特に借地人の方が既に施設に入所されており、今後その土地建物を使用する見込みが低いという「個別の事情」を詳細に分析し、適正な価格を慎重に算定しました。

単に相場を主張するだけでなく、当該借地権を第三者に売却しようとしても、建物の老朽化や利用上の制約から需要が限定的であることなど、客観的な評価を後見人側に丁寧に説明しました。

交渉は複数回に及びましたが、最終的には、当職の提示した価格が、成年後見人としても、借地人の方の利益を損なうものではないと判断できる範囲であるとして合意に至りました。

この合意に基づき、家庭裁判所の許可も得て、無事に借地権の買取り手続きを完了することができました。

結果として、当初の提示額より相当程度低い、ご依頼者様にとっても納得のいく価格での解決となりました。

本事例の結末 
ご依頼者様は、当初の希望よりも大幅に安価に借地権を買い取ることができ、長年の懸案であった土地の有効活用に向けた第一歩を踏み出すことができました。

成年後見人との交渉という特殊な事情を鑑みても、迅速かつ円満に紛争を解決することができました。

本事例に学ぶこと
成年後見人が関与する財産処分においては、単なる相場価格の主張に留まらず、その財産が持つ「個別具体的な事情」や「客観的な利用価値」を正確に評価し、それを法的・論理的に成年後見人に理解させることが極めて重要です。

本件では、建物の老朽化や借地人の利用実態といった様々な事情を考慮した適正な価格を提示したことが、成年後見人及び家庭裁判所の理解を得る上で大きな鍵となりました。

特殊な状況下での交渉こそ、専門的な知見と丁寧な説明が求められます。

弁護士 申 景秀