紛争の内容
被相続人に対して、先任の相続財産管理人は、被相続人の配偶者の相続財産の調査は特段行わないまま、終結していたところ、申立人債権者は、やはり、本被相続人の配偶者は、本被相続人の債務の連帯保証人でもあることもあり、その相続財産の有無、その多寡について調査されたいとして、家庭裁判所に申立てがなされました。

先任の管理人弁護士は亡くなられておりましたので、当職が改めて選任され、その財産管理、その財産調査を行うことになった、珍しい事案です。

交渉・調停・訴訟などの経過
まず、被相続人本人の配偶者の方の相続人を調査することになりしました。
本被相続人には配偶者がありましたが、その配偶者死亡時の相続財産(遺産)の有無などについて調査するには、改めて、戸籍関係を追跡しました。

本被相続人との共同相続人である、本被相続人の子でもある息子二人がありました。
その方々に宛てて、照会書の送付したところ、お一方から、母(被相続人の配偶者)の財産は知らないと電話があり、その後、二名の方は、母の相続について、相続放棄の手続をとられました。

他方、配偶者の最期の住所地である埼玉県内の市町村役場と、その前の住所地である遠方の住所地の市町村役場に、不動産の有無を問い合わせましたが、記録の保管期間の問題もあり、配偶者名義の不動産は発見できませんでした。

配偶者名義の預貯金調査をしました。無年金の方である可能性もありましたが、埼玉県さいたま市内の最後の住所地近辺にある金融機関の銀行口座の保有を調査しましたが、該当はありませんでした。

さらに、いわゆるメガバンクといわれる、みずほ銀行、三井住友銀行及び三菱UFJ銀行とゆうちょ銀行を調査しましたところ、残高は少額でしたが、みずほ銀行、ゆうちょ銀行に口座を保有していることが判明しました。

第一順位の相続人である子が全員相続放棄をしていたため、第二順位である(配偶者)の直系尊属を追跡したところ、皆お亡くなりになっていました。

第三順位の相続人を調査しましたところ、実兄の方が極めて高齢でありましたが存命であることがわかりました。

さて、相続財産管理人選任事件の被相続人の配偶者の相続関係を調査していくことが、本事件の処理として相当かという点も問題となり、裁判所と協議し、申立債権者(申立て後、債権譲渡がなされたため、譲受債権者がおります)に、これまでの手続進捗と判明した、極めて少額の預金、第三順位相続人の発見から、遺産分割が必要となるが、遺産預金からすると費用倒れとなりかねないこと、それ故に、これ以上の財産調査を打ち切り、手続きの終結に向けていきたいことを申立債権者などに説明をし、その了解を得ることになりました。

そこで、これまでの顛末を各債権者に報告しましたところ、同申立代理人や譲り受け債権者からも賛同を得、手続きの終結をはかりました。

本事例の結末
これまでの調査の結果、些少な預金債権についての相続分があると認識されますので、管理すべき財産がすべて消滅しているわけではありません。

しかし、その回収のためには、さらなる相続人調査、判明した相続人との遺産分割協議・調停・審判が不可避となり、過分な労力がかかる半面、仮に、回収ないし分割を受けた財産によって、相続債権者の満足を図ることは到底できません。

このような事態は、家事事件手続法208条が準用する同125条7項の「管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」に該当するものと考え、申立債権者及び同債券譲受人の異議もないことから、本管理を終了させることとなりました。

具体的には、費用の精査し、最終の財産管理報告書とともに、家庭裁判所に、本管理人の報酬付与を求める審判申立て、本処分取消の審判の職権発動を求める申立てをなし、裁判所から管理人選任の処分の取消を得、終了しました。

本事例に学ぶこと
本申立は、同じ被相続人について、先行した相続財産管理人選任事件がありました。
この被相続人には、先行した配偶者の相続がありましたが、この配偶者の相続財産の有無、多寡を調査はされないまま、終結したようです。
申立債権者としては、予納金100万円を納めても、相続財産管理人(現在の「相続財産清算人」)としての資格者に調査してもらいたかったようです。
費用対効果の点で疑問や負担もあるでしょうが、申立債権者としては本手続き選択に合理性があったようです。
稀有な事例ですが、ご参考になればと存じます。

弁護士 榎本 誉