
近年、相続未登記農地の存在は、農地の利活用を阻害する大きな要因として、社会問題となっています。本稿では、相続未登記農地の現状とその発生理由、並びに相続未登記農地が抱える問題点(リスク)を弁護士が解説します。
相続未登記農地の現状

令和8年2月、農林水産省が、全国の農業委員会を通じておこなった令和6年度相続未登記農地の実態調査の結果を公表しました。
相続未登記農地とは、相続が発生したにもかかわらず、登記名義人が変更されていない農地のことです。
この調査の結果によると、令和6年度における相続未登記農地の面積は、全国で約49.7万haとなり(令和3年度調査から2.3万ha減少)、全農地面積の約1割(9.7%)となっています。
また、相続未登記農地のうち遊休農地(現在耕作されておらず、今後も利用される見込みがない農地。または、利用の程度が周辺地域の農地と比べて著しく劣っている農地)の面積は、2.2万ha(4.4%)です。
埼玉県では、相続未登記農地の面積は4869 ha、全農地面積に占める割合は5.6%となりました。
面積で最も多いのは北海道(2.6万ha)ですが、全農地面積に占める割合で最も高かったのは鹿児島県(21.3%)でした。
(いずれも令和7年3月末時点での数字です)
相続未登記農地はなぜ生じてしまうのか?

相続が発生したにもかかわらず、名義変更(相続登記)がされないまま放置されている相続未登記農地の存在は、現在、深刻な社会問題となっています。
農地について相続が発生しても登記名義人が変更されず、権利関係が不明確になると、農業の担い手への農地の集積化・集約化を進める上で支障が生じます。
また、管理不全から周辺農家・近隣住民が迷惑を被っていたとしても、その農地の真正な所有者が分からず、誰にも是正を求めることができない、といった事態にもなりかねません。
このような相続未登記農地は、そもそも、なぜ生じてしまうのでしょうか。
農地が未登記のまま放置される背景には、次のような農地特有の理由があります。
放置される理由①「売りたくても売れない」という現実
農地は「農地法」という法律で守られており、農家以外の人への売却や賃貸、家を建てるための転用には厳しい規制が設けられており、いずれも農業委員会の許可が必要です。
そのため、実際に農業を営んでいない相続人からは、「相続しても自分では利活用できないし、買い手も見つからないだろうし、登記しても意味がない」と放置されがちです。
放置される理由② 資産価値と手続費用のアンバランス
地方の農地は、資産価値(評価額)が低い傾向にあります。
その一方で、相続登記を司法書士に依頼するための費用の負担、戸籍関係資料を集める手間などを重く感じてしまい、未登記のまま後回しにされてしまうケースがあるのも実情です。
放置される理由③ 何世代にもわたる放置
2024年4月から、不動産の「相続登記の申請義務化」が始まっており、農地も例外ではありません。
しかしながら、2024年の法改正前は、相続登記の申請をしなくても罰則がなかったため、祖父母やそれ以上の世代の名義のまま、何十年間も放置されているケースが珍しくありません。
こうなると、相続人の人数も、果たして誰が相続人であるかも曖昧になり、いざ現在の世代で登記しようとすると大変な手間と労力がかかることになるので、誰も重い腰を上げたがらない、というケースもあります。
相続未登記農地を放置することの問題点

相続が発生したにもかかわらず、農地を未登記のままにしておくと、法的なペナルティだけでなく、親族間や地域社会との間で大きなトラブルに発展する可能性があります。
相続未登記農地をそのまま放置することの問題点は、次のとおりです。
問題点① 法律による「罰則(過料)」を受けるリスク
先に述べたように、2024年4月から不動産の「相続登記の申請義務化」が始まっており、農地も例外ではありません。
義務化の対象となる相続
2024年4月1日以降に相続が発生した場合だけでなく、それ以前に相続が発生したケースでも遡って適用されます。
「うちの父は、30年以上前に亡くなっているから、登記しなくても問題ない」とは言えないので、注意が必要です。
申請義務を負う者
相続登記の義務を負うことになるのは、相続によりその農地の所有権を取得した者です。
また、いったん法定相続分による相続登記がなされた後に、遺産分割によって法定相続分を超えて農地の所有権を取得した者も、相続登記の義務を負います。
申請の期限
自己のために相続があったことを知り、かつ、その農地の所有権を取得したことを知った日から3年以内です。
「相続が発生した日(被相続人が亡くなった日)」を起算点とするわけではありませんので、「不服があっても3年以内に必ず遺産分割の話し合いをまとめて、相続登記までしなければならない」ということではありません。
2024年4月1日以前に発生した相続の場合は、
■相続による所有権取得を知った日
■相続登記の義務化が始まった日(=2024年4月1日)
のいずれか遅い日から3年以内となります。
期限内になすべきこと
上記の期限内にしなければならないのは、相続による所有権移転登記の申請です。
遺産分割が行われた場合は、遺産分割の結果を踏まえた相続登記の申請をすることであり、遺産分割がされる前であっても、法定相続分による相続登記の申請をすれば、登記申請の義務を履行したことになります。
また、「登記名義人相続人である旨の申出」(法務局の登記官に対して、登記名義人=被相続人について相続が開始した旨及び自分が登記名義人の相続人である旨を申し出ること)をすることでも、義務を果たしたことになります。
義務違反の罰則
対象となる相続につき、申請義務者が、正当な理由もないのに、期限内に相続登記の申請(または登記名義人相続人である旨の申出)をしなかった場合、10万円以下の過料が科されます。
農地も同様ですので、相続が発生したにもかかわらず、相続登記をせずに放置した場合には、法律上の罰則が科されるリスクがあるのです。
問題点② 農業委員会への届出義務違反
農地を相続した場合、法務局での相続登記とは別に、その農地がある市区町村の農業委員会へ届出を行う義務があります。
この届出は、相続を知った時点からおおむね10ヶ月以内に行う必要があり、怠ると同じく10万円以下の過料の対象になります。
問題点③ 売却・賃貸・転用が一切できなくなる
名義が亡くなった人のままだと、その農地を誰かに売ることも、他人に貸すことも、アパートや駐車場にするための農地転用もすることができません。
法的な手続きの窓口で一切受け付けてもらえなくなるため、土地が完全にフリーズしてしまいます。
このため、近隣の農家さんが、実はその農地を使いたい・譲って欲しいと希望していたとしても活用することができず、農業の担い手への集積化・集約化を進める上で支障が生じてしまうのです。
問題点④代を重ねるごとに解決が難しくなる
これが最も恐ろしい問題です。
名義変更をしないまま、次の世代、その次の世代へと相続を重ねていくと、ねずみ算式に法定相続人の頭数が増えていきます。
いざ農地を処分しようと思ったときには、「一度も会ったことがない遠い親戚数十人の同意と印鑑」が必要になり、事実上、名義変更が不可能な「所有者不明土地」になってしまいます。
相続未登記農地を抱えてお困りの方へ

農地の未登記は、時間が経てば経つほど、解決のハードルが上がります。
相続未登記の農地がある場合は、問題を先送りせず、現時点での権利者(相続人)を確定させ、相続登記を行うことが肝要です。
しかしながら、「何世代も前の名義になっていて、誰が相続人なのかも分からない」と途方に暮れていらっしゃる方もあるでしょう。
そのような場合は、是非、専門家である弁護士に相談して下さい。
弁護士であれば、戸籍を遡って調査することで相続人を確定し、その後の遺産分割の調整まで行うことができます。
放置によるメリットは1つもありません。
自分の代でしっかりと整理し、次世代へ負の遺産を残さないようにしましょう。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。









