紛争の内容
被相続人は、本手続の申立人である実弟のお宅の目の前の住宅に一人暮らしをしていましたが、自宅内のトイレを出たところで亡くなっていることが死後数日たって発見されたという事情がありました。
被相続人の相続放棄をした第三順位の相続人が、同相続人所有の土地上に、被相続人名義の建物があることから、同建物所有権の取得を目指し、家庭裁判所に、相続財産清算人の選任を求めた事案です。
なお、相続債務は300万円ほどがありました。
交渉・調停・訴訟などの経過
① 被相続人名義の建物の調査
申立代理人から補足説明を受け、被相続人名義の建物を訪問し、建物、そして内部を点検しました。
建物内の動産は、被相続人のお子さんの学生時代をしのばせるものが多数ありました。
その他、生活用具一式がありましたが、相当額に換価できそうなものは見当たりませんでした。
建物内部の残置動産の写真を撮り、写真を提供して、廃棄費用の見積もりをお願いしましたところ、100万円弱の見積もりが出ました。
② 不動産査定
建物の所有者は実の兄弟の方でしたので、その方との間に土地賃貸借はありませんでした。
よって、親族関係を基礎とする、使用貸借関係と考えられました。
また、被相続人は自然死でしたが、その死亡の発見が数日後であったことから、いわゆる心理的な瑕疵に当たると評価される物件であることを補足説明したうえで、不動産業者に査定をお願いしました。
不動産会社からの査定結果は、いずれも減価償却期間を経過していること、土地の使用権原が賃借権(借地権)でないことから、ある一社は査定不能、他の一社は「0円」との意見を添えてくれました。
③ 相続財産建物と底地との買受希望の申出
当清算人の官報公告を見た業者が、底地とともに本件建物の買取希望を出してきました。
そこで、底地を所有している申立人に、共同売却によることが可能か打診しました。
底地所有者は事業を営んでおり、本件建物底地も共同担保に提供して、運転資金を調達していることから、その時点での底地売却には乗り気ではありませんでした。
他方、申立人は、本件建物の内に残置されている動産の廃棄処分を引き受けるので、本件建物は、極めて低廉な金額(できれば、5万円ほど)で買取させていただきたいと回答がありました。
④ 不動産売却の権限外行為許可
そこで、当清算人は、家庭裁判所に対し、本件建物は、いわゆる心理的瑕疵のあるものであること、底地(敷地)の使用権原は使用貸借と評価せざるを得ないことから第三者が取得しても、底地所有者である申立人との間で賃貸借契約を締結することは強制できないこと、むしろ、取得者は建物収去を余儀なくされざるを得ないことを踏まえると、第三者の取得も到底あり得ないと考えられること、他方、本件建物内の残置動産は膨大であり、数十万円以上の廃棄処分費用が見込まれることなどから、本件建物を申立人に廉価でも引き取ってもらい、同建物内の残置動産の処分の義務から解放されることが好ましいことなどを理由にして、許可申請をする前に、裁判所に打診しました。
なお、使用借権付の本件建物の5万円という廉価売却については、相続債権者に意見を打診しておりません。
清算人の判断にゆだねるという返答がありましたので、申立人との間で、金5万円での売買契約を締結し、しかも、建物内動産の処分も買主に委ね、さらに、同年度の固定資産税負担も買主に負担していただく内容としました。
この売買については、家庭裁判所の許可を得、めでたく決済が整いました。
⑤ その他の清算業務
預貯金がありましたので、それぞれ解約手続きを取りました。
この解約手続きの関係で、被相続人の銀行からの借入について、保証会社と思しき機関より、被相続人名義の口座に入金があり、同日その入金額が払い出されるという取引履歴がありました。
この日時が相続発生後であったこと、相続人は全員が相続放棄をしているという、相続放棄申述受理証明書が揃っているのに、それ以前の出金であることから、申立代理人に念のため、被相続人名義預金からの相続人の出金の有無を確認してもらうとともに、同入金出金について金融機関に確認しました。
同金融機関によれば、保証会社からの保証実行による、被相続人名義口座への入金と、その貸し出し金融機関への出金が入金である趣旨の回答を得ました。当然ながら、相続人らの仕業でないことが確認できました。
本事例の結末
本申立の目的が、申立人の土地上の被相続人建物の取得でしたので、清算人の側の事情を汲んでくださり、建物及び建物内残置動産の早期の換価処分が整いました。
本事例に学ぶこと
本申立は、被相続人名義建物の底地所有者である実弟の方でした。
家庭裁判所から配転される事案のうち、ここ最近は、親族申立の不動産の処分を目的としての申立てによる事件が続いています。
当職も申立人として同様の事案を各地の家庭裁判所に申立てをしています。
法定相続人の方が、相続放棄をすることによって、相続債務を承継せずに、他方、親族関係を基礎とする不動産(共有関係であったり、使用貸借関係であったりするもの)を字谷処分することを目的として、相続財産清算人選任事件が利用されています。
申立人としては、被相続人名義の多額の預金などがない限り、少なくとも、家庭裁判所に予納金100万円を納めますが、それでも、負債を引き継ぐよりは経済的合理性が高い場合が多いようです。
事務所内外での法律相談でしばしば相談される事案ですので、費用負担も受け入れることが可能であれば、この手法をご相談・ご検討いただければと存じます。
弁護士 榎本 誉









