1 遺産分割における特別受益の持ち戻し
 遺産分割における共同相続人間の実質的衡平をはかるために、生前の贈与など、被相続人から生計の資本として財産をもらっていた相続人がいる場合、遺産の前渡しとして、現実の遺産分割においてその金額を組入れる計算(これを「持ち戻し」といいます)を行い、遺産分割対象財産の金額を確定します。

2 高等教育費用負担について
 被相続人は、自分の子供たちに義務教育を超えた、高等教育を与えることがあります。
 複数の子供全員に一律同じ費用をかけて進学させたという場合ならば、共同相続人間の不公平は生じません。
 しかし、両親の経済状況如何では、子供全員が大学進学を望んでいても、ある子には進学の費用を負担し、ある子にはそれを諦めさせ、高卒後の就職を選択させることがあります。学歴によって、その後の進路や経済生活に大きな相違が出てくることもあるでしょう。そこで、相続発生後に、その不公平を遺産分割にあたって調整しようという時に利用するのが、上記の特別受益の持ち戻しの制度です。

3 持ち戻し額の計算
 まず、当時の学費を調べる必要があります。通常は、相続人自らが出身大学に問い合わせて回答を得ます。しかし、他の相続人の学費については、個人情報開示の壁がありますので、依頼した弁護士を通じて、弁護士会照会請求の制度で開示してもらうことになります。
 次に、開示を受けた学納金情報をもとに、その支出時と相続発生日現在の貨幣価値に直すことが合理的とされています。その際に利用するのは、総務省の消費者物価指数(関東地方 教育)です。
 具体例として、長男が都内の私立大学に昭和45年に入学し、昭和49年に卒業しました。次男は高卒で、大学に進学していません。長男には、4年間で少なくとも合計金73万7,000円の教育費を被相続人が負担しました。これを相続発生時の平成29年の貨幣価値に直したところ、長男にかかわる特別受益額は、金475万8,727円となり、遺産分割調停で主張しました。裁判所は、このうち100万円については、特別受益の持ち戻し額と認定するとの心証を開示し、その内容をもとに調停が成立した例があります。 
他方、地方の相続の事案で、長男は都内の私立大学に昭和48年に入学し、総額70万円余りの学費の援助を受けました。他方、二男は実家から地元の国立大学医学部に6年間通い、その学費84万円余りを被相続人が負担しました。長男は都内での5年間の下宿代も負担してもらっているからとして、それらを当時の学生アンケートデータなどから推定計算し、1,000万円を下らない金額を特別受益の持ち戻す額であると主張しました。しかし、裁判所はこれを認めませんでした。

4 まとめ
 被相続人は、子供たちの志望する学業への支援を惜しまない方がほとんどです。
被相続人が負担した学費の相違を特別受益とするには、他の共同相続人との関係で、見逃し得ないほどに不公平でないと、裁判所はこれを特別受益として認定してくれないものです。