空き家を放置すれば近隣住民に多大な迷惑をかけるだけでなく、空家法上の勧告を受けて税金が最大6倍になったり、管理不全から生じた損害を賠償する必要があったりと、リスクがいっぱいです。それらのリスクと空き家問題を回避する方法について解説します。

増加する「空き家問題」

増加する「空き家問題」

近年、マスコミの報道などでも見聞きすることの多い「空き家問題」。

2015年5月に全面施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」(いわゆる「空家法」)で定義される「空家等」は、「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの(及びその敷地)」のことを言います(空家法第2条1項)。

このうち、売却や賃貸のために管理されているものや、別荘などの普段は人が住んでいない住宅を除いた、本来の意味での「空き家」は、1998年(平成10年)から2018年(平成30年)の20年間で、182万戸から347万戸と約1.9倍に増加しており(総務省「住宅・土地統計調査」による数字)、今後も急速に増加していくことが予想されています。

空き家は、少子高齢化・核家族化などを背景に、

■所有者が亡くなったが、相続人が誰もいない

■所有者が亡くなり、相続人がいるが、すでに独立して居を構えているため、実家を使う必要がない

■単身で住んでいた所有者が施設に入居することになり、誰も住む人がいなくなった

など、様々な理由で発生します。

しかしながら、これらは誰にでも起こり得る事態です。

「高齢の両親が元気なうちは気にも留めていなかったけれど、いずれ父も亡くなり、母も亡くなったら、実家はどうなるのだろう? 自分を含め、兄弟姉妹は皆結婚して遠方に住んでいるのに・・・」

空き家問題は決して他人事ではないのです。

空き家を放置することのリスク

空き家を放置することのリスク

「ゴミ屋敷状態でもない限り、空き家を放置していても特に問題はないのでは?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、空き家を放置することには次のようなリスクがあり、ひいては近隣住民との法的トラブルに発展する恐れもあります。

建物の老朽化によるリスク

家屋は、適切な管理をしないと劣化が進みます。

日本で主流となっている木造家屋であればなおさらで、定期的な換気をしないと湿気が溜まり、あっという間に傷んでしまいます。

定期的なメンテナンスや修繕を怠っていると、台風や強風の際に外壁材や屋根材が落下したり、雨漏りの放置で室内の床が腐ったり、さらには、建物自体が倒壊する恐れも出てきます。

管理不全で建物が老朽化するだけならまだ良いのですが、これが、

■台風の時に瓦が吹き飛んで隣家の窓ガラスを割ってしまった

■傾いていたブロック塀が崩れて、通行人に怪我をさせてしまった

となれば大変です。

他人を巻き込んだ被害が生じてしまうと、所有者として、損害賠償責任を問われることになりかねません

衛生面でのリスク

定期的な換気や掃除を怠ると、ネズミや害虫(シロアリなど)が発生する可能性があります。

また、老朽化した家屋には害獣が容易に侵入できる“隙間”ができ、それらを修繕しなければ、ハクビシンやアライグマなどが天井裏や室内に棲みついてしまうこともあるのです。

空き家がこうした害虫や害獣の温床となってしまうと、悪臭や糞尿で不衛生極まりなく、近隣の住民にも多大な迷惑をかけることになります。

周辺環境が悪化するリスク

周辺環境が悪化するリスク

庭付きの空き家で植栽があるという場合は、その管理が大変です。

定期的な手入れを怠れば、草木はあっという間に伸び放題となりますし、ひどい場合は、樹木の枝が隣地に越境して隣人の迷惑になることもあります。

また、草ぼうぼうの庭では蚊などが発生しやすくなり、これもまた、近隣の迷惑となります。

また、空き家の老朽化が進んでまるで廃墟のようになってくると、近隣の景観を損なうほか、そのような外観がゴミの不法投棄を誘引する可能性もあります。

一度ゴミが捨てられ始めると、(変な話ですが)ゴミがゴミを呼ぶようにして不法投棄が続き、気付いたらゴミ捨て場のようになっていたというケースもあります。

治安悪化のリスク

窓は割れたまま、庭の草木もぼうぼうの状態―――こんな状態では、一見してすぐに、「この家には誰も住んでいない」ことが分かってしまいます。

このような空き家は、落書きをされたり、不審者や犯罪者が入り込んだりする可能性があります。

また、不審火や放火の被害に遭うことも考えられ、火事となれば、近隣の住宅に与える被害も甚大なものとなります。

損害賠償の問題を含め、深刻な事態となるでしょう。

このように、空き家を放置することによる治安悪化のリスクは決して軽視できるものではありません。

罰則が適用されるリスク

罰則が適用されるリスク

2015年5月に全面施行された空家法では、「特定空家等」に認定された空き家につき、自治体からの勧告や命令に従わずに放置を続けると、罰則が適用されることがあります。

「特定空家等」とは?

「特定空家等」とは、

「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」

を言います(空家法第2条2項)。

具体的には、次の状態に1つでも当てはまる場合は、自治体から「特定空家等」と認定されます。

■倒壊など著しく保安上危険となる恐れがある状態

■アスベスト飛散やゴミによる異臭の発生など、著しく衛生上有害となる恐れがある状態

■適切な管理がされていないことで著しく景観を損なっている状態

■その他、立木の枝の越境や棲みついた動物の糞尿などの影響によって、周辺の生活環境を乱している状態

なお、現に著しく保安上危険または衛生上有害な状態にあるものだけでなく、そのような状態になることが予見されるものも「特定空家等」に認定されます。

「特定空家等」に認定されるとどうなる?

「特定空家等」に認定されると、自治体から所有者に対して、空き家を適切に管理するよう、まずは「助言」や「指導」が行われます。

例えば、「屋根が落ちそうなので修理して下さい」、「隣地にはみ出さないよう、植木は定期的に伐採するように」などです。

「助言」や「指導」を受けても改善が見られない場合は、「勧告」が出されます。

これは「助言」や「指導」よりも強度の要請です。

例えば、傾いていることが明らかで今にも崩れそうなブロック塀を放置していたりすれば、通行人の生命・身体の安全を脅かす危険な状況ですから、速やかな撤去や修繕などを求める「勧告」が出されるでしょう。

さらに、「勧告」を受けても所有者が対応しない場合は、「命令」が下されることになります。

所有者がこの「命令」にも従わない場合、最大で50万円の過料に処される可能性があります。

このように、「特定空家等」に認定されると、自治体から空き家の適切な維持管理を求められ、危険な状態を放置していると、罰則を科される恐れがあるのです。

「命令」を下されても所有者が対応しない場合の「行政代執行」

「命令」を下されても所有者が対応しない場合は、どうなるのでしょう?

最大50万円の過料の制裁を受けてもなお、所有者が倒壊しそうな空き家を放置したままでは、近隣の安全は確保されないままです。

このような場合に備えて、「行政代執行」という制度が用意されています。

これは、行政が所有者に代わって危険な空き家を取り壊す(または修繕する)、というものです。

工事にかかる費用はいったんは行政の負担、つまり税金が使われるということになりますが、工事完了後に行政から所有者に対してかかった費用相当額を請求します。

このように、「命令」まで出されているのにそれを無視して何らの対策も講じないことは、近隣のみならず広く公共の迷惑となるのです。

税金の負担が増えるリスク

税金の負担が増えるリスク

空家法上の「特定空家等」に認定された空き家について、自治体からの勧告や命令に従わずに放置を続けると、罰則が適用される可能性があることを説明しました。

しかし、それだけではありません。

空き家を放置していると、それまで受けられていた税制上の優遇措置が受けられなくなる結果、今よりも高い税金を支払わなければならなくなる可能性があるのです。

土地や建物といった不動産を所有していると、固定資産税や都市計画税などの税金がかかります。

居住できる建物(住宅、マンションなど)の敷地である「住宅用地」には、特例措置が適用されており、例えば、固定資産税の課税標準額は、面積200㎡以下の部分までの住宅用地(小規模住宅用地)は6分の1、小規模住宅用地以外の住宅用地は3分の1に軽減されています。

しかし、空家法に基づく「勧告」を受けた「特定空家等」の敷地や、居住のために必要な管理がなされていない場合などで今後居住する見込みがない空き家の敷地には、この特例措置が適用されなくなるのです。

つまり、自治体から「勧告」を受けると、固定資産税が今までの最大6倍になってしまうのです。

不動産の所有者として、これは大きなデメリットであり、リスクです。

「特定空家等」に認定された場合は、「助言」や「指導」を受けた段階で速やかに対応しましょう。

あるいは、そもそもの話ですが、空き家を所有し続けるのであれば、「特定空家等」に認定されないように維持管理をしっかりしておくことが肝要です。

空き家に関して法的責任を問われる場合

空き家に関して法的責任を問われる場合

これまで空き家を放置することのリスクを見てきましたが、所有者にとっての最大のリスクとも言えるのが、その空き家の管理不全に起因して第三者に損害を与えてしまった場合の法的責任です。

所有者に課される工作物責任

空き家の管理不全に起因して第三者に損害を与えてしまった場合、所有者は、工作物責任と呼ばれる損害賠償義務を負うことになります(民法717条)。

土地の工作物(=建物)に瑕疵がある状態で所有しており、その瑕疵が原因で他人に損害が発生したときは、所有者は(たとえ過失がなかったとしても)損害を賠償しなければならないのです。

例えば、

■台風で屋根材が飛ばされて、隣家の車を傷つけてしまった

■ヒビの入っていたブロック塀を放置していたが、そのブロック塀が突然倒れて通行人が下敷きになり、重症を負わせてしまった

■朽廃した建物が倒壊して、隣家のフェンスや壁を損傷してしまった

などのケースでは、いずれも、空き家の所有者が工作物責任として損害賠償義務を負うことになります。

また、この工作物責任は、植栽にも適用されますので、

■庭に植えてある大木の枝が道路に張り出していたが、ある日、その枝が落下して通行人に怪我をさせてしまった

といった場合も、空き家の所有者が損害賠償義務を負います。

これらは、「空き家を(危険な状態で)所有していた」ことから、発生する可能性のある責任です。

上記の例からもわかるとおり、万一死傷事故が発生すれば、被害も大きく、従って賠償金額も高額になることが多いです。

その他の損害賠償責任

空き家の所有者が負うことになる法的責任は、上記の工作物責任だけではありません。

例えば、

■空き家に不審者が入り込んで、放火された。放火による火災で両隣の家が全焼した

■空き家に棲みついた害獣の糞尿、敷地内に大量に不法投棄されたゴミから出る悪臭等で、隣家の住民に健康被害が生じた

といった場合にも、一般的な不法行為責任として、所有者が損害賠償義務を負うことになる可能性があります。

特に、火災になった場合の被害は深刻です。

火災保険で対応しようにも、誰も人が住んでいない空き家の場合は保証の対象外となる場合もあります。そうなれば、近隣住民への多額の賠償金を所有者個人が支払わなければなりません。

空き家をそのまま放置しておくことは、上記の工作物責任と併せて、法的責任を負うリスクと隣り合わせであり、実はとても怖いことなのです。

「空き家問題」を回避するためには?

「空き家問題」を回避するためには?

これまで、空き家を放置することのリスクについて説明してきました。

ここまで読まれた皆さんは、そのリスクが決して軽視できないものであることを、よく理解されたのではないでしょうか。

■万が一の時には多額の損害賠償義務を負う可能性がある

■税金の負担が最大6倍に膨れ上がる可能性がある

■近隣住民にも多大な迷惑をかける

などなど、空き家をそのまま放置していて良いことはひとつもありません

この問題に対する最良の解決策は、「空き家を空き家にしない」、「空き家を作らない」ことに尽きます。

「そのうちどうにかしよう」と考えて放置していると、家屋の状態が悪くなり、いざ売却しようとしても売れない・・・という悪循環に陥るかもしれません。

動くのであれば、なるべく早く。

それでは、具体的な対応方法を見ていきましょう。

まずは方針を決める

まずは方針を決める

「空き家を作らない」ようにするといっても、その方法は様々ですが、一般的には、

①「使う」(誰かが住む)

②「売る」

③「貸す」

④「解体する」

といった方法が考えられます。

また、同じ①「使う」・②「売る」・③「貸す」にしても、事前にリフォーム工事をしたうえで、使ったり、売ったりすることも考えられます。

④「解体する」でも、建物を解体した後、更地となった土地を売却するのか、そのまま更地の状態で利用するのかも、個々の事情によって異なります。

そこで、まずは、関係する親族の間で、その建物をどうするのか、よくよく話し合って方針を決める必要があります。

例えば、両親が他界した後の実家がそのままでは空き家になりそうだという場合、

■誰が実家を相続するのか(所有者の確定)

■実際に住むのは誰か(管理者の確定)

■(住まない場合)売るのか、貸すのか、それとも解体するのか

を話し合って決めていくのです。

もちろん、誰が相続するのかを決めた後は、相続することになった人が、その後の処分方針について決めていけばよいと思います。

相続しなかった人が、「あの家には両親の思い出が詰まっているから、人に売ったり貸したりしないで欲しい」などと、処分方針を縛るのは控えましょう。

「売る」・「貸す」なら不動産業者に相談を

方針が「売る」・「貸す」に決まったら、まずは不動産業者に相談するのが良いでしょう。

客付けや募集、契約書の締結まで、専門の業者であれば安心して任せることができます。

最近では、老朽化の進んだ空き家の建っている土地でも、利活用の需要を上手く見つけて捌いてくれる(買主や借主を見つけてくれる)業者もいます。

また、プロの視点から、売ったり貸したりするにあたって、リフォーム工事を勧められることもあります。

一定の要件を満たすリフォーム工事を行う場合、国や自治体の補助金を受けられることもありますので、調べてみて下さい。

(「地方公共団体における住宅リフォームに係わる支援制度検索サイト」が充実しています)

空き家を「解体する」

空き家を「解体する」

老朽化した空き家を解体する場合、国や自治体の補助金を受けられることもあります。

空き家が立地している自治体のウェブサイトで調べるか、窓口に問い合わせてみて下さい。

なお、空き家を解体すると、土地の上に居住用の建物が存在しないことになりますので、税制上の特例措置が受けられなくなり、固定資産税の負担が増します。

ただ、たとえ税金の負担が増えることになっても、管理不全の空き家をそのまま放置しておくことの方がよほどリスクがあると思いますので、「使わない、売らない、貸さない、十分な管理ができない」という場合は、解体することを検討して下さい。

「空き家バンク」に登録する

「売る」・「貸す」を考えているなら、不動産業者に相談するだけなく、「空き家バンク」に登録しておく方法があります。

「空き家バンク」に登録しておけば、空き家を買いたい人・借りたい人が登録された物件の中から自分に合ったものを検索できるので、申し込みをしてきた人に、ミスマッチングを起こすことなく、空き家を売ったり貸したりすることができます

また、空き家のある自治体が「全国版空き家・空き地バンク」(全国の自治体が把握・提供している空き家などの情報を、全国どこからでも簡単にアクセス・検索できるようにしたもの)に参加している場合は、登録すればより多くの人に見てもらえる可能性があります。

「全国版空き家・空き地バンク」を利用できるかどうかは、各自治体に確認してみて下さい。

空き家の管理サービスを利用する

空き家の管理サービスを利用する

忙しかったり、空き家が遠くにあったりして自分で管理できない場合は、有料の空き家の管理代行サービスを利用するのも一つの方法です。

サービスの内容や費用は事業者によって様々ですが、中には低額で見回りや報告書作成をしてくれるNPО法人やシルバー人材センターによるサービスもあります。

自治体によっては、サービス提供団体の一覧を提供しているところもありますので、確認してみましょう。

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グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。

■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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