遺産について勝手に使われているかもしれない、家族に財産が勝手に使いこまれているかもしれない、このような心配がある場合、どのようにしたらよいかを解説致します。

相続が開始している場合

被相続人となる人が死亡して、相続が開始している場合に、勝手に遺産について手続きを行われて財産をとられてしまった、ということはままあります。

遺産が勝手に使われてしまっているかもと思うとかなり不安になりますが、相続が開始している場合、ある相続人だけが勝手に遺産を使い込んだり、支配することはできません。
ですので、勝手に遺産について手続きがされている場合でも、原則的には、適切な割合で遺産を分配することができます。

 遺産について比較的よくある勝手な手続きは、まともな話し合いをせず勝手に遺産分割をしてしまう場合や、勝手に預貯金を引き出してしまう場合です。以下、これらの場合について解説していきます。

勝手に遺産分割がなされた場合

遺産分割のやり方

そもそも、遺産分割をするには、相続人全員で話し合い、取り分を決める必要があります。これを「遺産分割協議」と言います。この協議を行わない場合、原則として、相続は法律が決めた割合にしたがって、法定相続分で分配されることになります(被相続人が遺言をしており、法定相続分と違う分け方を指定している場合は法定相続分によりません)。
 
 そして、遺産分割協議は、文字通り協議ですから、相続人全員が合意しなくてはなりません。一部の相続人が話し合いに参加していない状態で行われた遺産分割協議は無効となります。そのような話し合いによる遺産の分け方の決定は認められません。

話し合いによる解決

 一部の相続人が除かれた状態で行われた協議は無効ですから、この場合は、まずは話し合いにより解決を図ります。つまり、もう一度相続人全員が参加する状態で遺産分割協議を行い、改めて遺産分割協議をやり直すという方法で解決を図ります。

 改めて相続人全員で話し合い、遺産分割協議書を作成することができれば、新たな遺産分割協議が行われたことになりますから、この新しい協議が有効となり、解決することができます。

裁判による解決

 話し合いによる解決ができなかった場合、裁判手続で解決するしかありません。遺産分割協議について、一部の相続人が参加しておらず全員の合意がないから無効であるという訴えをする必要があります。具体的には、「遺産分割協議無効確認の訴え」を提起します。
 
 裁判で遺産分割協議が無効であると判断された場合、勝手な遺産分割がされたことが公的にも確定します。

不当利得返還請求

 裁判で無効な遺産分割が行われたことが確定しても、とられていた分を取り返さなければ意味がありません。裁判で結果が出たからと任意に返してくれれば良いのですが、必ずしも返してもらえるとは限りません。

そこで、無効な遺産分割により多くとっていた部分を返せということを言うために、「不当利得返還請求」という請求をすることができます。

 これは、法律上の原因なくして利益を得ていた者に対して、損失を補填するために請求するもので、無効な遺産分割で本来より多く得ていた財産は法律上の原因なくして利益を得ていたといえるので、取り返すことができます。

 しかし、不当利得返還請求には時効があります。「権利を行使することができることを知ったときから5年」もしくは「権利を行使することができるときから10年」で請求権が消滅します。
 ですので、勝手に遺産分割がされたと知ったときから5年以内に不当利得返還請求をする必要があるという点については注意が必要です。

 このように、勝手な遺産分割協議を行われた場合、話し合いや裁判手続をとおすことで本来の自分の取り分を取り返すことができます。

勝手に預貯金が引き出されている場合

銀行口座の凍結

 預貯金が勝手に引き出されていることが判明した場合、まずは口座を凍結する必要があります。口座凍結の手続きを行うことでこれ以上の勝手な引き出しを防ぐことができます。
 
金融機関は、口座の名義人が死亡したことが分かれば口座を凍結するのが通常ですが、名義人が死亡したことを知るすべはありません。そのため、名義人が実際には死亡していても、死亡したことが分からない以上、口座は動き続けるので、直ちに金融機関へ連絡して口座凍結の手続きをとる必要があります。

話し合いによる解決

 口座を凍結させて、これ以上の勝手な使い込みを防いだ後は、使い込んでいた金額について返してもらう必要があります。そこで、まずは話し合いをして返してもらうよう試みることが考えられます。
 
 話し合いにより任意に支払ってくれれば、素早く問題を解決することができます。しかし、何も証拠がないと話合いも平行線となり、うまく進まないのが実情です。
 
 そこで、金融機関に問い合わせて取引明細を取得するのが有効です。取引明細は過去にさかのぼってとることができますし、明細をとることで、いくらの引き出しが名義人死亡後に行われていたかが明らかになります。
 
 こうした証拠を武器にしながら話し合いによる解決を図ることがまずは考えらえます。
 なお、まだ遺産分割協議が終わっていない場合には、遺産分割協議についての話合いも行い、遺産分割協議書を作成することが後の紛争回避のためにも有効です。

裁判による解決

 相続人が勝手に預貯金を使い込んでいるにもかかわらず、話し合いに応じる余地がないなど、話し合いでは解決に至らない場合もあります。この場合、裁判手続を利用して解決を図ることを考えます。

 遺産分割協議そのものがまだ済んでいない場合、遺産分割調停を行うことになります。遺産分割を裁判所のテーブルにのせて話し合いで決定するという手続きです。他の遺産の分け方についても一緒に話し合って解決するという方法です。

 遺産分割調停は、裁判官の判断で結論が決定されるものではありませんが、調停委員という第三者の人間が介入して話し合いを整理することで、当事者のみの話し合いより解決につながりやすいというメリットがあります。

 一方、遺産分割協議は済んでいる場合に預貯金の勝手な使い込みが判明した場合には、不当利得返還請求をすることとなります。

相続が開始していない場合

問題となるケース

まだ被相続人となるであろう方が存命で、生きているものの、預貯金を相続人となるものが使い込んでいるという場合もあります。たとえば、自身の父親と同居で認知症の介護をしている長男が、父親の預貯金をどんどん浪費しているという場合などです。

 この場合、被相続人となる父親は存命ですから、相続は発生しておらず、遺産分割協議などの話は問題となりません。

では、不当利得返還請求はどうでしょうか。不当利得返還請求権は、法律上の原因なく利益を得ている者に対して、その損失を補填するものです。
今回のようなケースでは、そもそも損失はありません。なぜなら、預貯金は存命の父親のものであり、自身には何の権利もないからです。

そのため、不当利得返還請求をすることもできません。また、金融機関に問い合わせたとしても、名義人が存命である以上、他の人が口座を勝手に凍結させたりすることはできません。

成年後見人等の選任

 このように存命の方の財産の使い込みが問題となる場合、成年後見人を選任することが有効です。成年後見制度は、認知症などの精神上の障害で判断能力が低下した人を保護し、支援するための制度です。
 
 成年後見人を選任することで、本人たる被後見人の財産の管理権が成年後見人に移ります。裁判所の監督におかれた成年後見人の管理下に財産が移ることで、適切な財産管理が期待でき、使い込みのような被害を防ぐことができます。
 
 後見の制度は、判断能力の低下の程度にあわせて、「後見人」「保佐人」「補助人」という役割が用意されています。ご本人の判断能力の低下にあわせて、これらの制度を利用することを検討することが考えられます。

まとめ

 ここまで、相続財産が勝手に使い込まれている場合や、将来遺産になるであろう財産が勝手に使い込まれている場合の対処法についてご案内しました。相続財産をめぐって親族間でトラブルになることは多いと思います。そうした場合、第三者である弁護士が介入することで話し合いが円滑に進むこともあります。
 相続関係でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談いただけますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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