被相続人が亡くなると、原則として、相続人間で遺産分割の話し合いを進めることになります。しかし、巷では、親と同居している兄弟が多くもらえるという情報があるようです。そこで、法的に、親(被相続人)と同居していたら、相続において有利に取り扱われるのかについて解説します。
※小規模宅地の特例等、税務に関する解説は除いています。

 

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被相続人と同居していたとしてよくある主張

例えば、親が亡くなったとして、高齢な親の場合は、子が同居しているケースが多くあります。そういう場合に、ご相談にいらした方から、
「親と同居していたので、相続分が多くもらえると聞いた」
「私は長男で、親とも同居していたので遺産の全部をもらう権利がある」

という話が出たことがあります。インターネットで調べたそうです。

果たして、本当に相続人と同居していただけで、相続分を多くもらえるのでしょうか。

相続分は、遺言がある等特別なケースを除き、原則として、「法定相続分」が決まっています。

※法定相続人と法定相続分は、こちらで詳しく解説しています。
https://www.g-souzoku.jp/sozoku-kiso/kiso01/

結論として、親と同居したというだけで、法定相続分より多くもらえるという制度はありません。
それなので、相続が有利になるということもありません。
法定相続分は、親と同居しているとか、長男であるとかは関係ないのです。

なぜこのような話が広がっているのか・・・
推測ですが、

よく起きる問題として、同居している子が、親の預貯金を使い込んだり、親の預貯金を管理するというパターンがあります。そして、真実はわかりませんが、親の預金に使途不明金が生じており、他の相続人が、「同居の子が使い込んだ」として、紛争に発展します。しかし、使途不明金を立証するのは困難な面があるので、結局、「使った者勝ち」という状況が一定数あります。

こうした現状をふまえ、「同居のほうが相続に有利」と言われているのでしょう。

しかし、上の例は、使い込みが真実であれば、それは戻さないといけない財産ですし、立証できるかできないかという問題は、同居だとか、相続に有利だとかとは別次元の問題です。

ただし、同居の場合は、「寄与分」という制度の主張につながりやすいと言えます。
寄与分が認められる場合は、相続財産が多くもらえることになります。

寄与分について


寄与分とは、相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者がある場合に、他の相続人との間の実質的な公平を図るために、その増加をさせた相続人に対して、相続分以上の財産を取得させる制度のことを言います。

具体的には、被相続人の家業に従事して被相続人の財産を増やした、寝たきり状態の親を自宅で介護をして親の財産の減少を防いだ(ヘルパーを頼まずに済んだことから、財産の減少を防いだものと評価されます)など、被相続人の財産の維持又は増加に特別の寄与をしたと評価できる場合に、「寄与分」として貢献した相続人の取り分を増やすことになります。

なお寄与分を主張できるのは相続人だけです。
相続人ではない方が、相続人の生前、どんなに相続人の世話をしたり、事業資金を援助していたとしても、寄与分を主張することはできません。

例えば、内縁の妻には相続権が認められていませんから、寄与分の主張をすることはできません。

寄与分についてのQ&A

寄与分と認められるにはどのくらいの介護への尽力が必要ですか?

直系血族・同居の親族・夫婦・兄弟姉妹といった一定の親族間には、民法上互いに扶養すべき義務が課されていますので、その扶養義務の範囲を超える内容の療養看護がなされていて初めて、寄与分として考慮されることになります。
たとえば、認知障害の発現などにより、通常であれば家政婦・家政夫等の助けを要するというような状態にある被相続人の療養看護を(そのような者を雇わずに自分自身で)行った、という場合には、この「扶養義務の範囲を超える内容の療養看護」と評価できると考えられます。

長年亡父の家業を手伝ってきた長男夫婦の働きは寄与分として評価してもらえますか?

その家業の労務に見合った報酬を得ることなく、長期間これに従事していたという場合には、寄与分は認められています。
「対価を受けている」からといって直ちに寄与分が認められないというわけではなく、有償での従事でも「対価をもらっていた以上に相続財産の増加や維持に貢献している」と認められる場合には、その分について寄与分が認められるケースがあります。

妻の家事労働は寄与分と評価されますか?

「寄与分」が認められるためには、被相続人と相続人との身分関係から見ても「通常期待される程度を超える貢献をした」と評価される必要があります。夫婦間には法律上の「協力扶助義務」が課されており、妻が家事労働をして夫を支えても、それは一般的にはこの「協力扶助義務」の範囲内と考えられます。また、そもそもこの「協力扶助義務」があるからこそ、配偶者にはもともと2分の1という高い法定相続分が認められています。
従って、妻の家事労働に寄与分があると評価することはできません。

まとめ

 同居の家族が相続に有利ということはありません。
 遺産分割は、原則として法定相続分での分割となるからです(分割協議がない場合)。
 しかし、同居の親族が寄与分を主張できる場合があります(同居でなくても主張は可能)。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 申 景秀
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