相続において自分が遺留分の請求ができるとわかっても、時間が経つことで時効にかかってしまい、せっかくの請求権を行使できないことがありえます。
 そうした事態を防ぐために、遺留分侵害額請求権の時効制度や、時効の完成を防ぐ手段についてご案内致します。

遺留分とは

 そもそも遺留分とは何かということについてですが、遺留分とは簡単に言えば、亡くなった方(相続される人という意味で「被相続人」といいます)の特定の相続人に最低限保証される相続財産の取り分のことです。

 遺贈などによって、全部の財産をある相続人に渡されてしまったとしても、後に、遺留分に満たない分についてお金で補填するよう請求できるという制度です。その意味で、遺留分侵害額請求などと呼びます。

 2019年7月1日からの相続法の改正により、それまでの現物での返還ではなく、遺留分に満たない部分をお金で補填するよう請求するという制度になりました。

遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求をする際に気を付けなければならない時効は、3つあります。
そもそも遺留分を請求できるかどうかという点から2つの時効(除斥期間)が設けられています。
そして、遺留分請求をできたとしても、その後に請求した金銭債権が放っておくと消えてしまうという点から3つ目の時効が設けられています。
これらは複雑な制度となっておりますが、以下順にご案内します。

①相続の開始と遺留分の侵害を知ってから1年での時効

 1つ目に気を付けるべき時効は、「相続の開始」及び「遺留分を侵害する贈与又は遺贈」があったことを知ったときから1年間請求権を行使しない場合は、時効によって請求権が消滅するというものです。
 
 これは、相続の開始と遺留分が侵害されていることの両方を知ったときを基準として、1年間請求しないと時効になるというもので、相続の開始を知ったからといって1年間のカウントがスタートするわけではありません。あくまで相続開始と遺留分侵害の両方を知らなければ、1年間のカウントはスタートしません。

 もっとも、時効というのは自動的に請求権が消滅する制度ではありません。時効期間が経過した後に時効を主張されて始めて請求権が消滅するという仕組みになっております。とはいえ、時効期間を経過する前に時効のカウントを止めるような手段を行っておくことが有効といえます。

②相続の開始から10年の除斥期間

 ①の時効のカウントがスタートするのは、相続の開始と遺留分侵害を知ってからです。そうすると、これを知らない限り遺留分はいつまでも行使できるということになりそうです。
しかし、そうすると、被相続人から贈与を受けた人は、遺留分侵害額請求を行使されるのではないかといつまでも警戒することとなり、法律関係の安定性が害されます。

そこで、法律は、たとえ①の時効のカウントがスタートする条件がそろっていなくても、相続が開始してから10年が経過したら自動的に遺留分の請求をできないことにしたのです。

②の除斥期間は、①の時効と異なり、期間の経過さえあれば、時効の主張を必要とせずに請求権が消滅します。その意味で時効とは異なる制度ですので、「除斥期間」と呼ばれています。

除斥期間については、時効と異なり後述のような手段をとっても期間計算のカウントを止めることができません。

③金銭請求をしてから5年での時効

 ①・②の時効にかからなかったとして、遺留分侵害額請求としての金銭請求をしても、時効にかかることがあります。①・②の時効は遺留分をそもそも行使できるかというものでしたが、遺留分を行使して請求を行っても、請求をしたときから5年間が経つとその請求権は時効にかかることとなります。

 これは民法上、債権は時効によって消滅すると定められていることによるもので、遺留分独自の時効とは別の債権一般の時効です。遺留分侵害額請求も金銭を求める金銭債権ですので、債権一般の時効にかかります。
 もっとも、債権の5年間での時効は2020年4月1日の民法改正によるものです。ですので、これより前に遺留分侵害額請求を行っていた場合、請求権を行使したときから5年間ではなく、民法改正前の規定にしたがい、行使できるときから10年間で時効となります。

時効の成立を防ぐ手段

 ①の時効、②の除斥期間、③の時効に気を付ける必要があるとご案内してまいりましたが、②の除斥期間に関しては、先にも述べたように止める手段がありません。ですので、相続開始から10年以内には必ず遺留分請求権を行使する必要があります。
 対して、①・②の時効には時効のカウントを止める手段がありますので、以下で具体的にご案内致します。

①相続の開始と遺留分の侵害を知ってから1年での時効の防ぎ方

 ①の時効は、遺留分の行使を相続及び遺留分の侵害を知ってから1年以内に請求権を行使することで時効の完成を防ぐことができます。

 この請求は、裁判をすることに限定されていません。裁判をせずとも、請求権を行使したと認められれば、それで足ります。
 そのため、理屈の上では口頭での請求でも、一応請求をしたことにはなります。しかし、口頭の請求では証拠として残りませんし、のちのトラブルの原因になります。
 
 ですので、書面で請求を行うことが事実上求められるといえます。具体的には配達証明を付けた内容証明郵便を送付することで請求権を行使することがよいです。
 内容証明郵便とは、郵便局がいつどのような内容の郵便が送られたかということを証明してくれるものですから、確かに遺留分請求権を行使したことが証拠として明らかになるのです。また、配達証明をつければ、郵便局が相手方に確かに配達されましたということを証明してくれることになるので、配達の相手が受け取っていないなどと主張することを防ぐことができます。

 遺留分の請求をする際に注意するべきことは、遺留分を侵害している相手が誰であるかということです。複数の遺贈があり、遺留分を侵害している相手が複数いた場合には、そのうちの一人に請求権を行使しても他の侵害している者には請求を行ったことにはなりません。つまり、請求権を行使した以外の相手との間では時効が成立するので、遺留分を侵害している者が具体的に誰で何人いるのかということを明らかにしておく必要があります。

③金銭請求をしてから5年での時効の防ぎ方

 金銭請求をしてから5年の債権一般の時効については、民法上、時効の「完成猶予」という制度と、「更新」という制度が用意されています。そこで、これらの制度を用いた時効の完成の防ぎ方についてご案内致します。

なお、これらは2020年4月1日の民法改正により名称や制度内容が変更したものであり、それより前の債権については「時効の停止」、「時効の中断」という制度を用いていました。

時効の完成猶予

 時効の完成猶予とは、時効の完成を一時的にストップさせ、文字通り完成を猶予させるというものです。例えば、あと1年で時効が完成するという債権について、完成猶予にあたる事由を発生させれば、その完成猶予の事由が認める期間だけ時効の完成を先延ばしにできるというものです。
 
 完成猶予には、様々な事由がありますが、遺留分の時効の完成を止めるという点では、催告をすることや裁判上の請求をすることが有効と考えられます。

 催告は、早く支払ってくださいということを相手に告げることですが、これも内容証明郵便で行われることが一般的です。もっとも、催告では催告があった日から6か月の間しか時効の完成をストップさせられない点には注意が必要です。とはいえ、催告を行った結果、後述の時効の更新事由が発生することもあります。

 時効の完成を防ぐという点でもっとも有効な手段は、裁判上の請求です。裁判上の請求をすることで、裁判が終了するまでの間時効の完成をストップさせることができます。また、裁判上での請求をすることで、結果として後述する時効の更新をさせることができることがあります。

時効の更新

 時効の更新とは、更新事由があれば、それまでカウントされていた時効期間をリセットして、その時点から再び時効の期間のカウントを開始するという制度です。
 例えば、すでに4年の期間が経過しており、残り1年の経過で時効が完成する場合に時効の更新事由が発生した場合、更新事由があったときから再度5年間の期間が経過しない限り時効が完成しないということになります。
 
 時効の更新には、いくつかの事由がありますが、遺留分の請求との間では、裁判等で権利が確定したこと、債務の承認があったことの2つが有効と考えられます。

 時効の完成猶予をすべく催告を行った結果、債務の承認にあたるような事由(債務の一部の支払いなど)があれば、時効が更新されます。
 また、完成猶予すべく裁判上の請求を行った結果、判決等で権利が確定すれば、時効が更新されます。

 このような手段をとることで遺留分侵害額請求における金銭債権の時効の完成を防ぐことができます。

まとめ


 ここまで遺留分を請求するにあたって気を付けなければならない時効と除斥期間について、その止め方についてご案内しました。実際に遺留分の請求をするにしても、そもそも遺留分がいくらであるかということや請求の仕方などはなかなか難しいものです。
 相続関係でお悩みの方は、ぜひ一度弁護士に相談していただけますと幸いです。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 遠藤 吏恭
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