「長期間相続登記等がされていないことの通知」を受け取ったらどうすればいい?弁護士が解説

ある日突然、法務局から「長期間相続登記等がされていないことの通知」というお手紙が届くことがあります。これは、未解決の相続問題があることを示しています。この記事では、この通知を受け取った方がどのような対応をとるべきなのか解説します。

「長期間相続登記等がされていないことの通知」って何?

「長期間相続登記等がされていないことの通知」って何?

法務局から突然送られてくる「長期間相続登記等がされていないことの通知」をご存じでしょうか。

全く身に覚えが無かった方は大変驚くことと思います。

これは一体どういった通知なのでしょうか。

この通知の内容をぐっと要約すると、

①法務局が調査をした結果、登記名義人がすでに亡くなっているものの、名義がそのまま変更されていない不動産(土地や建物)が発見されました。

②あなたは、その登記名義人の法定相続人に当たります。

③したがって、あなたはこの不動産について、相続登記をするなどの対応をとってください。

④不動産の情報と登記名義人の住所・氏名

といったことが書いてあります(2024年7月現在)。

つまり、相続登記などの手続をとることを促す通知ということですね。

この通知は、登記名義人と実際の所有者が異なってしまい、所有者が分からなくなっている土地が増えているという問題や、相続登記が義務化されたことなどを受け、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」という法律に則って、法務局が送付している通知です。

この通知に似せたニセモノが出回る可能性は無いではありませんが、法務局から正式に送られてくることのある通知ということで、ご理解頂けたらと思います。

ちなみに、法定相続人が複数人いる場合には、法務局が独自に事情を知っていそうな人(例:不動産の所在地に一番近いところに居住している相続人)1名を選択して、その1名にのみ、通知を送っているようです。

したがって、法定相続人全員にこの通知が届くわけではないことにご注意ください。

相続登記の義務化とは

相続登記の義務化とは

そもそも、相続登記の義務化とは何でしょうか。

実はこれまで、相続によって不動産を取得した場合に、相続登記を申請して不動産の登記名義人を変更することは、義務ではありませんでした。

しかしながら、相続が発生してもこれが放置され、相続登記もなされないとなると、不動産登記を見ても実際に誰が所有者なのか分からないという問題が生じていました。

その結果、日本全国で、所有者が誰だか分からず、放置されている土地がたくさん出てきてしまったのです。

所有者が分からないことによって、例えば、ボロボロの家屋が今にも倒壊しそうなのに対応がなされなかったり、草木が伸び放題になっている土地があったり、開発・再開発の妨げになったりと、様々な弊害が生じていました。

こういった事態を受けて、不動産登記法が改正され、令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。

具体的には、原則として相続開始から3年以内に、遺産分割を行うなどして、相続登記等をする必要が生じました。

これにより、不動産登記について、実際の権利者を登記名義人に反映させていくことになりました。

なお、令和6年4月1日よりも前に生じた相続についても、相続登記は義務とされていますので、現在生じている相続および今後生じる相続の全てについて、相続登記は義務ということになります。

相続登記の義務化について詳しくはこちらをご覧ください。

より実際の権利関係を反映させるための通知制度

より実際の権利関係を反映させるための通知制度

上記の通り、相続登記は義務化されたわけですが、これにより義務を履行しようとする人というのは、「相続が起きている」「自分は相続人だ」ということを分かっている人になります。

一方、上記でも述べた通り、相続問題や遺産分割、相続登記等が長年放置された結果、もはや一見して誰が権利者なのか(相続人なのか)が分からず、相続人自身が相続に気付いていないという状況もあり得るところです。

また、相続人が把握できなかった不動産があり、意図せず放置されているというパターンもあります。

いずれにせよ、単に相続登記を義務化しただけでは、不動産登記に実際の権利関係を反映させる施策としてはもう一歩ということになります。

そこで、相続登記の義務化と同時に、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」という法律によって、法務局が主体となって、長期間相続登記が行われていない不動産の相続人を探し出して通知をするという、本制度がスタートすることになったのです。

「長期間相続登記等がされていないことの通知」を受け取った場合の対応

「長期間相続登記等がされていないことの通知」を受け取った場合の対応

上記の通り、「長期間相続登記等がされていないことの通知」が届いた場合、そこには(登記上)未解決の相続問題があるということになり、通知の宛名人は、その相続の当事者(相続人)ということになります。

したがって、通知を受け取った場合には、相続人としてきちんと対応していかなくてはなりません。

そこで、以下、どのように対応していけば良いかを解説します。

①まずは「法定相続人情報」を確認する

①まずは「法定相続人情報」を確認する

「長期間相続登記等がされていないことの通知」に心当たりが無い場合には、そもそも相続関係がどうなっているのか分からないという状況が多いと思います。

そういった場合に便利なのが、通知にも記載がある「法定相続人情報」の取得です。

法務局は、独自に戸籍等を調査して相続関係を把握した上で、通知を送付しています。その際に、把握した相続関係を「法定相続人情報」としてまとめており、通知を受け取った人が申請すれば、この「法定相続人情報」が記載された書面を発行してもらえることになっています。

発行の費用は無料です。

法定相続人情報を出力した書面の提供依頼書を、持参または郵送で、法務局に提出して発行依頼をします。

この「法定相続人情報」の便利なところは、自分で戸籍等を収集しなくて良く、しかも相続登記に流用することができるというところです。

特に相続人や関係者が多い相続の場合(兄弟姉妹やおじおばの相続の場合や、被相続人が何代も前の場合など)は、戸籍を収集して相続関係を把握するだけで相当な手間と時間がかかりますから、ぜひ積極的に活用していきたいところです。

参照:法務省HP「長期間相続登記等がされていないことの通知を受け取った方へ」

②「相続放棄」の要否を判断する

②「相続放棄」の要否を判断する

次に急いで検討をすべきことは、相続放棄をするか否かです。

相続放棄には期限があります。被相続人が亡くなって相続が発生したこと、及び自身が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所で所定の手続を行う必要があるのです。

「長期間相続登記等がされていないことを通知」には、上記の通り、相続が発生している(登記名義人が死亡している)ことと自身が相続人であること、遺産と思われる名義変更未了の不動産があることが記載されていますから、通知以前に相続に関して全く何も知らなかったという場合にも、本通知を受け取った時点から、3ヶ月の期間がスタートすると考えられます。

相続放棄をするか否かの判断は、通常は財産調査を行ってすることになりますが、被相続人と疎遠であることを理由に、財産のある・無しの調査をせずに相続放棄をしてしまうということも認められています。

特に全く交流が無く疎遠な親戚の場合、その財産関係(特に借金や負債関係)が分からないということもありますから、念のため相続放棄してしまうというのもひとつの案です。

相続放棄についてくわしくはこちらもご覧下さい。

もし財産調査をする場合には、「長期間相続登記等がされていないことを通知」に被相続人名義の不動産の情報が載っていますので、これをもとに不動産登記を取得すると良いでしょう。

ただし、通知には不動産1件分の情報しか記載がありません(2024年7月現在)。

例え複数の不動産を被相続人が所有している場合でも、その全ての情報が記載されているわけではないことに注意が必要です。

また、記載されている被相続人の情報をもとに、被相続人の住民票・除票を取り寄せたり、名寄帳(市町村が把握している被相続人名義の不動産が一覧になったもの)を取得したりして、財産調査を行うこともできます。

借金や負債などについては、その全てを把握することは難しいですが、銀行や一般の消費者金融などからの借入であれば、信用情報の照会をすれば判明することが多いと思われます。

もし、相続放棄の期限である3ヶ月以内に財産調査が終わらない場合には、忘れずに「熟慮期間の伸長」を家庭裁判所に申し立てるようにしましょう。

これを忘れて3ヶ月が経ってしまうと、相続は承認されたものとされ、相続放棄ができなくなってしまいます。

③「遺産分割協議」を行う

③「遺産分割協議」を行う

相続人と遺産が判明したら、次は遺産分割協議を行うことになります。

「協議」といっても、必ずしも一堂に会して対面で行わなくてはならないわけではありません。

「長期間相続登記等がされていないことを通知」を受け取るような相続の場合は、相続人同士が疎遠であったり、全く面識が無かったりすることが予想されますので、まずはお手紙などで、状況をお知らせするところからはじめることになるのではないかと思います。

なお、上記の「法定相続人情報」には、他の相続人の氏名のみならず住所も記載されているとのことなので、お手紙を送る際には活用することができます。

お手紙や電話等によって、あるいは集まって対面で話し合った上で、遺産をどのように分けるか相続人全員の合意を形成します。そして、その内容を遺産分割協議書としてまとめることになります。

なお、遺言がある場合には、遺産分割協議を行うのではなく、原則として遺言の内容に従うことになりますが、長期間放置されている相続問題の場合は、遺言があるということは珍しいように思います。

遺言の保管についてはこちらもご覧ください。

④協議の結果を踏まえて「相続登記」を行う

④協議の結果を踏まえて「相続登記」を行う

遺産分割協議が調い、遺産分割協議書が作成できたら、不動産については相続登記を行います。

この相続登記にも、相続登記の義務化によって、期間制限があります。

すなわち、「長期間相続登記等がされていないことを通知」によってはじめて今回の相続問題を知ったという場合には、

  • 通知を受け取って3年以内に、遺産分割協議を調えて相続登記をする
  • 通知を受け取って3年以内に遺産分割協議を調えられない場合は、3年以内に相続人申告登記を行うか、法定相続分での相続登記を行う(その上で、遺産分割協議が調ってから3年以内にその内容を踏まえて相続登記を行う)

といった対応が必要になります。

⑤通知を無視すると罰則もある…?

⑤通知を無視すると罰則もある…?

上記で見てきた通り、「長期間相続登記等がされていないことを通知」は相続人に対して相続登記等の対応を促す通知です。

この通知自体は単なるお知らせですので、これを無視したとしても特に罰則はありません。

しかし、この通知が届いたということは、相続放棄をしない限りは、遺言がある場合を除いて、(登記上)未解決の相続問題があり、遺産分割協議をする必要があるということです。

もし、ここで、遺産分割協議をせず、相続問題を放置した場合にはどうなるでしょうか。

その場合は、相続登記義務を果たしていないことになってしまいますので、最終的には過料(行政罰)の対象となる可能性があります。

そのため、何らかのご事情によって遺産分割協議が調えられない場合には、相続人申告登記か法定相続分での相続登記を行うことによって、ひとまず過料の対象から外れるようにした方が良いと思われます。

ただし、これはあくまで「仮」の対応で、相続問題(遺産分割)自体は解決していません。

ご自身が解決しなければ、問題は次の代(ご自身の相続人)に引き継がれていってしまいますので、できるかぎり解決を目指す方が望ましいと思われます。

対応が難しければ弁護士へ相談を!

対応が難しければ弁護士へ相談を!

以上の通り、「長期間相続登記等がされていないことの通知」の意味や受け取った場合の対応方法などについて解説してきました。

長期間、相続登記がなされない不動産がある場合というのは、相続人が相続問題の存在を分かって放置している場合もありますが、相続人が、相続人であることや相続問題の存在をそもそも知らない場合も多いと思います。

特にこういったケースでは、相続関係が何代にも渡っていて、とても複雑である可能性があり、専門知識が無い場合には適切に対応できないこともあり得ます。

このような場合、相続関係や遺産の把握、他の相続人との協議などが難しいこともありますので、一度弁護士にご相談頂き、今後の方針についてアドバイスを受けたり、遺産分割協議の代理人を依頼したりする方が良いと思われます。

「長期間相続登記等がされていないことの通知」を受け取ったら、是非、弊所の相続専門チームの弁護士へ一度ご相談下さい。

ご相談 ご質問

ご相談 ご質問

グリーンリーフ法律事務所は、設立以来30年以上の実績があり、17名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。

また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。


■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 木村 綾菜
弁護士のプロフィールはこちら