相続不動産の4つの評価方法 それぞれの違いを弁護士がわかりやすく解説します

相続の場面では、遺産の中に含まれる不動産の評価額が争いになることがよくあります。本稿では、不動産の評価方法として使われる4つの基準(固定資産評価額、相続税評価額、公示価格、実勢価格)につき、弁護士がわかりやすく解説します。

相続財産の中にある不動産の評価

相続財産の中にある不動産の評価

相続が発生し、遺産の中に不動産が含まれる場合、その不動産をいくらと評価するかを巡って、相続人間に争いが生じるケースがあります。

相続人全員で遺産分割を行うにせよ、特定の相続人から遺留分侵害額請求をするにせよ、まずは被相続人が遺した遺産の総額がいくらなのか、すなわち遺産の評価が必須となります。
現金や預貯金は金額そのままを評価額とすれば足りますし、株式(上場株)もその時々の株価の相場から比較的簡単に評価額を出すことができます。

これに対して、不動産の評価は一筋縄ではいきません。
それというのも、不動産の評価方法には、固定資産評価額、相続税評価額、公示価格、実勢価格など、いくつもの方法があるからです。
同じ不動産でも、その立地や形状、使用状況などによって、評価方法の違いから数百万円、場合によっては数千万円単位で評価額が変わってくることもあるのです。

ここでは、不動産の4つの評価方法について、それぞれの違いを意識しながら見ていきます。

①固定資産評価額

固定資産評価額

固定資産税評価額は、固定資産税を決める際の基準となる価額のことです。
後に述べる公示価格のおよそ7割の金額と言われています。
ある不動産の固定資産評価額を調べるには、不動産の所在地である市区町村で「固定資産評価証明書」を取得すれば、そこに記載があります。また、市区町村から発行される固定資産税の納税通知書にも記載があります。

②相続税評価額

相続税評価額

相続税評価額は、相続税や贈与税の算出の基準となる価額のことです。
後に述べる公示価格のおよそ8割の金額/span>と言われています。
この相続税評価額は、読んで字のごとく、相続税を申告する際の不動産の評価方法として使用されます。土地については「路線価方式」または「倍率方式」で算出され、建物については固定資産税評価額がそのまま使用されることが多いです。

③公示価格

公示価格

公示価格は、国土交通省の土地鑑定委員会が特定の標準地について毎年1月1日を基準日として公示する価格のことです。
固定資産評価額はこの公示価格のおよそ7割の金額、相続税評価額はおよそ8割の金額となります。

④実勢価格

実勢価格は、現実の市場で取引が成立する価格のことです。
「時価で評価しよう」と言う時は、この実勢価格を指します。
現実の市場は生き物ですし、取引価格はその時々の需要と供給のバランスによって上下しますので、公示価格よりも高い価格になることもあれば、その逆の場合もあります。

不動産の評価額が争いになった場合はどうなる?

不動産の評価額が争いになった場合はどうなる?

相続人それぞれの主張

上記のとおり、不動産の評価額を決定するには主に4つの方法がありますが、相続の場面ではしばしば、どの評価方法によるかが問題となります。

遺産分割協議を行うにあたり、不動産を取得したいと考える相続人の立場からすれば、不動産の評価額はなるべく低廉であることが望ましいため、「固定資産評価額」や「相続税評価額」で評価したいと主張するでしょう。
逆に、不動産は取得せず、その分を代償金の形でもらいたいと考える相続人の立場からすれば、不動産の評価額はなるべく高くあって欲しいですから、「公示価格」や「実勢価格」で評価すべきだと主張するでしょう。

これは、遺留分侵害額請求をする側(⇒なるべく高く評価してもらった方が有利)とされる側(⇒なるべく低く評価してもらった方が有利)でも同様です。

裁判所実務の傾向は?

不動産の評価方法につき、相続人全員の意見が一致すればよいのですが、意見の一致を見ない場合は、家庭裁判所に調停を申し立て、調停委員を交えて落としどころを探っていくことになります。
調停でも決着がつかない場合、最終的には家庭裁判所の審判によって決定することになります。

筆者の経験では、家庭裁判所の実務では、土地については「相続税評価額(路線価)」、建物については「固定資産評価額」によることが多いという印象です。

しかし、これもケースバイケースであり、土地・建物ともに「実勢価格」との乖離が大きい物件の場合には、「実勢価格」を用いることが多いです。
例えば、都心の一等地に立つ賃貸ビルなどでは、「実勢価格」が「固定資産評価額」の数倍になることもあり、このような場合は「実勢価格」によることが妥当と言えます。

妥当な評価方法の模索

さて、「実勢価格」を用いるといっても、具体的な金額を主張するためには客観的な根拠資料が必要です。

そこで、当事者がそれぞれ、不動産業者に無料の簡易査定を依頼して、その査定書を提出することがありますが、その査定書の金額もバラバラで、お互いに歩み寄れない・・・という場合には、費用をかけて不動産鑑定をすることになります。
不動産鑑定士の行う不動産鑑定は、裁判所にとっても信用性が高く、最も公平な決め方の一つと言えるでしょう。

しかしながら、不動産鑑定を行うには決して少なくない金額の鑑定費用がかかります。特に、鑑定の対象となる不動産が複数ある場合には、鑑定費用も高額となり、百万円以上かかるケースも散見されます。
また、それらの鑑定費用を、誰がどのような割合で負担するかも決めなければなりません。

さらに、忘れてはならないのは、費用をかけて不動産鑑定を行ったからといって、必ずしも自分が希望したとおりの評価額が算出されるとは限らない、という点です。

そのため、「多額の費用をかけてまで不動産鑑定を行うべきかどうか」については、慎重に判断した方がよいと思います。
時間と費用の節約のために(あるいは円満な解決のために)少し譲歩してもよいと考えられるのであれば、無理に不動産鑑定を行う必要はないでしょう。
例えば、「相続税評価額」を0.8で割り戻した金額を一応の「実勢価格」として扱ってもよいですし、お互いの簡易査定の結果の間を取るといった提案も有効です。

不動産は、他の財産に比べて価格も大きいため、どうしてもその評価額につき争いが生じやすいと言えますが、相続人同士でよく話し合って、妥当な評価方法を探っていけるとよいと思います。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 田中 智美
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