こんにちは。弁護士法人グリーンリーフ法律事務所の弁護士 渡邉千晃です。

口座名義人が死亡した場合、その預金口座は、どうなってしまうのでしょうか。

口座名義人の死亡により預金が引き出せないとなれば、その名義人の相続人としては、故人のお葬式費用など、急な出費が必要となる場合に、困ってしまいますよね。

この記事では、口座名義人が死亡してしまった場合に、その名義人の預金口座がどうなってしまうのかといった点や、その預金口座からお金を引き出すための手続きについて、ポイントをわかりやすく紹介していきます。

 

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預金 相続が発生したらすべきこと(銀行への連絡)

相続が開始したことを知り、預金を相続したことが分かったら、直ちに、当該口座が開設されている銀行に、口座名義人が亡くなった旨を連絡しましょう。

仮に、相続人が口座のパスワードを知っていて、自由に預金を引き出せるとしても、銀行に連絡することなく、軽率にその口座からお金を引き出すことには注意を要します。

なぜなら、口座からお金を引き出すことによって、相続人が相続を「単純承認」したとみなされるおそれがあるからです。

「単純承認」とは、預金などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も、全て相続人が相続するという意思表示をいいます。

本来、相続人に借金があることが判明して、プラスの財産よりもマイナスの遺産の方が大きいということが分かった場合には、相続人が「相続放棄」をすることで、マイナスの遺産の負担から逃れることができます。

しかしながら、「単純承認」をしてしまうと、相続人は、被相続人の権利義務を全て承継することになるため、後にマイナスの遺産の方が大きいということが判明したとしても、「相続放棄」をして、マイナスの遺産から逃れることができなくなってしまいます。

被相続人名義の口座からお金を引き出すことは、相続財産の一部を処分する行為であると考えることもできるため、これにより、その相続人が相続を「単純承認」したとみなされるおそれがあるのです(民法921条1号参照)。

したがって、被相続人名義の口座がある場合には、まず、被相続人が亡くなったことを銀行に連絡することが大事といえるでしょう。

銀行 口座の凍結を解除するための手続き

銀行が名義人の死亡の事実を知ると、その名義人の口座は、相続手続きが完了するまでの間、一時的に凍結されることになります。

したがって、共同相続人間で、口座名義人の財産をどのように相続するかを決めて(遺産分割をして)、銀行口座の凍結解除の手続きを行わない限り、原則として、相続人は、預金を引き出すことができないことになります。

※なお、銀行での凍結解除の手続きは、銀行によって必要な書類が異なり、また、相続方法によっても必要な書類が異なるので、手続きを行う際は、該当する銀行にお問い合わせください。

もっとも、相続手続きが完了するまで、口座の引き落としができないとなると、急な出費が発生した場合に、困ることとなってしまいます。

そこで、以下で説明するとおり、一定額までの金額であれば、凍結された口座から預金を引き出すことができるという制度が認められています。

遺産 分割前の相続預金の払い戻し制度(手続きの流れや必要書類)について

「遺産分割前の相続預金の払い戻し制度」とは、共同相続人間で遺産分割が成立する前であっても、被相続人名義の預金口座から、一定額を引き出すことができるという制度です。

被相続人が亡くなった場合、葬儀費用など、急な出費がかかることが想定されますが、銀行口座が凍結されてしまうと、特定の相続人が予期せぬ費用を負担することになってしまうという不都合な事態が生じてしまいます。

そこで、この制度を活用することによって、一定額までは被相続人の口座から預金を引き出すことができるようになり、そこから葬儀費用などに充てることで、相続人間で不公平が生じないように、調整することができることになります。

「遺産分割前の相続財産の払い戻し制度」は、引き出したい金額によって、家庭裁判所の仮処分が必要となる場合があります。

以下で、家庭裁判所の仮処分が不要な場合と必要になる場合について、解説していきます。

家庭 裁判所の仮処分が不要な場合

引き出せる 金額の計算式

引き出そうとする金額が以下の計算方法によって算出される一定額未満である場合には、家庭裁判所による仮処分は不要で、相続人が単独で銀行の手続を行うことにより、その一定額を引き出すことができます。

※なお、遺言相続の場合には、この制度を利用できない場合などもあるので、該当の銀行にお問い合わせください。

払い戻しができる額は、下記の計算式で求められます。

払い戻し可能な額=相続開始時の預金額×3分の1×払い戻しを行う相続人の法定相続分

ただし、この場合でも、引き出すことができる金額は、150万円が上限となります。

例)夫が亡くなって相続が開始した場合に、夫名義の口座に300万円の預金が残っていて、相続人としては、妻、長男、次男がいたとします。

①このときに、妻が当該口座から払い戻しを行おうとすると、50万円まで単独で引き出せるということになります。
【計算式】300万円×3分の1×2分の1(妻の法定相続分)=50万円

②長男又は次男が払い戻しを行おうとすれば、25万円まで単独で引き出せるということになります。
【計算式】300万円×3分の1×4分の1(長男又は次男の法定相続分)=25万円

③仮に、上記の事例で、夫名義の口座に1200万円の預金があったとすれば、妻が引き出せる金額は、上限の150万円となります。
【計算式】1200万円×3分の1×2分の1(妻の法定相続分)=200万円

※150万円の上限を超えるので、引き出せる金額は、150万円となる。

手続き に必要となる書類

この場合に、手続きに必要となる書類は、以下の通りです。

・被相続人の除籍謄本と戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡まで連続したもの)
・相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
・預金の払い戻しを希望する相続人の印鑑証明書

家庭 裁判所の仮処分が必要となる場合

引き出したい金額が、上記の計算式で求められる一定額を超える場合には、家庭裁判所による仮処分が必要になります。

家庭裁判所の仮処分を受けるためには、遺産分割調停の申立てを行い、調停又は審判によって、その金額が必要な理由を裁判所に認めてもらう必要があります。

手続き に必要となる書類

この場合に、手続きに必要となる書類は、以下の通りです。

・家庭裁判所の審判書謄本(審判書に確定表示がない場合には、審判確定証明書も必要)
・預金の払い戻しを希望する相続人の印鑑証明書

※なお、必要となる書類は、金融機関により異なる場合があるので、詳しくは、該当する金融機関までお問い合わせください。

まとめ

口座の名義人が亡くなった場合に、その口座がどうなるのかについて、解説しました。

基本的に、口座の名義人が亡くなってしまった場合には、口座が凍結されてしまうことになりますが、上記の制度を使えば、凍結された口座から一定額までを引き出すことができるようになります。

名義人が亡くなってしまい、葬儀費用など急な費用負担が生じた場合には、この制度の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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