
現行の成年後見制度は、一度利用を始めたら、本人の判断能力が回復しない限り一生やめられないという難点があります。令和8年4月3日、必要な期間・事柄のみの利用を可能とする改正案が閣議決定され、今後、使い勝手の良い制度として生まれ変わります。
利用しにくいと言われている成年後見制度

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方について、家庭裁判所が本人の権利を守る人を選ぶことにより、本人を法律的に支援する制度です。
本人が判断能力を常に欠いている場合には「後見人」が、判断能力が著しく不十分な場合には「保佐人」が、判断能力が不十分な場合には「補助人」が選任されて、本人の代わりに契約をしたり、本人が単独でした契約を取り消すなどして、本人の権利の保護に努めます。
このように、判断能力が不十分な方の権利を守るための成年後見制度ですが、実は、ある難点から、利用をためらう声が多くありました。
その難点とは、一度、後見人等が選任されると、本人の判断能力が回復しない限り、途中で利用をやめられないということです。
例えば、ある人が亡くなり、相続人全員で遺産分割協議をしなければならない場面があるとします。
この時、相続人の中に、認知症を患って施設に入所している方がいるとします。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければなりませんが、その方の症状が重く、判断能力を欠いている状態にある場合、そのままでは有効な遺産分割協議を成立させることができません。
有効な遺産分割協議を成立させるためには、協議の前段階として、まず、判断能力を欠いている相続人のために、成年後見人の選任を申し立てる必要があります。
家庭裁判所によって後見人が選任されたら、その後に、ようやく遺産分割協議が可能になる(選任された後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加する)のです。
さて、上記の例で、後見人が参加して遺産分割協議が無事に終わったとしても、後見人の任務が解かれることはありません。
一度、後見制度の利用を始めると、本人の判断能力が回復しない限りは、本人が亡くなるまで後見人が付き続けることになります。
その後、特に、重要な法律行為(契約など)をする予定が何もなくても、です。
もし、選任された後見人が専門職であったとしたら、後見人に対する報酬として毎月2~6万円程度を、本人が亡くなるまで支払い続けなければなりません。
選任された後見人が親族であったとしても、本人の財産の変動や管理の状況を家庭裁判所に報告する手間と労力を負担し続けることになります。
これが、現行制度の難点です。
判断能力に多少の問題はあっても、それまで身近な家族がきちんとサポートし、何の問題もなく生活していたのに、遺産分割という一つの出来事をきっかけに後見人等を選任せざるを得ず、その後、特に必要もないのに制度の利用をやめられないのです。
これでは、「その後一生続くというのは、ちょっと・・・」と、制度の利用をためらう方がいるのも頷けます。
成年後見制度の見直しについての閣議決定

このように、現行の成年後見制度には利用しにくい面があったことから、政府は令和8年4月3日、成年後見制度を抜本的に見直す民法改正案を閣議決定しました。
見直される点は、次のとおりです。
「後見人」「保佐人」を廃止して「補助人」に一本化

現行の制度では、本人が判断能力を常に欠いている場合には「後見人」が、判断能力が著しく不十分な場合には「保佐人」が、判断能力が不十分な場合には「補助人」が選任されて、本人の代わりに契約をしたり、本人が単独でした契約を取り消したりして、本人の権利の保護に努めています。
しかし、この3類型のうち、「後見人」と「保佐人」は、後見人等に与えられる権限が強く、その分、本人の自由な法律行為が制限される度合いが強いものでした。
そこで、改正案では、権限の強い「後見人」と「保佐人」を廃止して、「補助人」に一本化します。
また、補助人を選ぶ際は本人の意見を考慮することや、補助人が本人の意向を尊重して職務を行うことを条文で明確化します。
本人の権利利益の保護を図りつつも、本人の残存能力を考慮してそれを過度に制約しないこととのバランスをとったものです。
「終身」的な制度から「必要な期間・事柄のみ」の利用可能へ

これが、最も大きな変更点でしょう。
先に述べたように、現行の成年後見制度は、一度利用を始めると、本人が判断能力を回復しない限り、生涯に渡って利用をやめることができないという難点がありました。
そこで、改正案では、家庭裁判所の判断のもと、「必要な事柄」について代理権や取消権を付与し、「必要な期間」だけ、補助人を選任することができるようにします。
例えば、先ほど紹介した例では、家庭裁判所は補助人を選任する際に、遺産分割に関連する代理権や取消権のみを付与します。
そして、無事に遺産分割協議が完了して補助人の存在が必要なくなったと判断すれば、補助人の任務を終了させることができるようにするのです。
これにより、「一度始めたら、一生やめられない制度」から、本人のニーズに合わせて、「必要な期間」「必要な事柄」のみ利用できる、使い勝手の良い制度へと生まれ変わります。
「特定補助」制度の新設

改正案では、権限の強い「後見人」と「保佐人」を廃止して「補助人」に一本化しますが、家庭裁判所が、判断能力を常に欠き、必要性があると認めた場合には、医師2名以上の診断などを要件として、幅広い取消権を付与する「特定補助」の制度も設けられます。
預金の払い戻しや大規模なリフォーム工事を実施する場合など、財産に関する11の重要行為に対して取消権を与えられるようにするものです。
判断能力を欠く常況にあり、特に保護の必要性が高い方を念頭に置いた制度です。
「本人の利益のために特に必要がある場合」を解任事由に

改正法では、補助人の解任事由に「本人の利益のために特に必要がある場合」を追加します。
これにより、横領などの明らかな不正行為がなくても、適切なサポートをしていなければ、家庭裁判所が補助人を解任できるようになります。
現在、成年後見制度の利用を迷っている方へ

以上の改正案の内容をお知りになった方は、
「今、申立てをすると後見人がずっと付くことになってしまうから、改正法が施行されるまで申立てを見送ろう」
と考えるかもしれません。
しかし、改正案はまだ閣議決定されたばかりで成立もしておらず、施行日がいつになるかも分からない状態です。
しかも、改正案では、現行制度を利用している場合は、これまでどおりの制度を継続するか、それとも新しい制度に切り替えるか、選択できるようになる見込みです。
何よりも、成年後見制度は、判断能力に乏しい本人の権利と利益を守ることに主眼があります。
親族による本人の資産の使い込みや遺産分割など、今、現に本人の権利を守るための後見人が必要であるのに、法律の改正を待っていては取り返しのつかない事態に陥ってしまうかもしれません。
今まさに制度の利用が必要であるという方、ご親族の方は、法改正の前であっても、適切なタイミングで申立てを行うことをお勧めします。
成年後見制度 Q&A


Q1 成年後見制度を利用するには、どれくらいの費用がかかりますか?

A1 家庭裁判所に申立をする時に、印紙代3400円(登記手数料2600円を含む)、郵券代5000円程度がかかります。この他に、診断書や戸籍謄本等の取得費用、鑑定が必要な場合は鑑定費用もかかります。
後見人が選任された後は、後見人の報酬として毎月2~6万円程度がかかるほか、後見人が本人に代わって遺産分割協議を行った場合や、不動産を売却した場合などには、働きに応じた付加報酬を支払う必要があります。

Q2 成年後見制度を利用して成年被後見人になると、選挙で投票したり、候補者として立候補することもできなくなってしまうのでしょうか?

A2 そんなことはありません。
法律の改正により、平成25年7月以降に公示・告示される選挙から、成年被後見人の方も選挙で投票したり、候補者として立候補することができるようになっています。

Q3 商店街で総菜屋を経営しているのですが、よく買い物に来てくれるお客様に後見人がついていることを、最近になって知りました。
後になって、後見人の方から「契約を取り消すので、代金を返して欲しい」と言われてしまうのでしょうか?

A3 成年被後見人が単独でした法律行為(売買契約など)は、後見人において取り消すことができます。
ただし、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、取消しの対象外です。
お惣菜の購入もこの例外に該当しますので、後になって取り消されることはありません。
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