1)寄与分が認められた事例

父(被相続人)が亡くなり、母、長女、二女、長男の4人が相続人になりました。
しかし、遺産分割の話し合いがうまくいかず、結局、長男が当事務所に依頼して、家庭裁判所で遺産分割の調停をすることになったのですが、問題となったのは、長男に寄与分があるかどうかということでした。


※寄与分とは、相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者がいるときに、その者の取り分を多くする制度のことを言います。 
この長男の場合、17歳のときから父の縫製会社を手伝い、職人肌だった父の代わりに、会社の経営管理面を引き受け、卸問屋との交渉、外注の仕組みの確立、和服の縫製から洋服の縫製への業態の変化などを行ってきました。
その反面、働きに見合うような給料は、父が第一線から退くまで、もらうことはありませんでした。 
他方、長女、二女は、縫い子として父の家業である縫製会社を手伝ってきました。ただし、いずれも結婚するまででしたら、長男と違って、長期間、縫製会社と関わることはありませんでした。 
調停でもお互いの主張は平行線でまとまらず、審判の段階に移行し、家庭裁判所が遺産をどのように分けるかの決定をして、ようやく決着がつきました。

この決定では、長男について10%の寄与分を認め、長女、二女には寄与分を認めませんでした。 
寄与分は、特別の寄与があった場合に認められるのであり、特別といえない程度の寄与では、寄与分を認めてもらうことはできません。また、認められた場合でも、30%とか40%のような寄与分はほとんど認められることはありません。 
長男の場合、経営管理面のほとんどを行ってきたこと、それに見合う給料をもらっていなかったことから、10%の寄与分が認められたものです。

2)遺産の分け方と、特別受益、寄与分が問題になった事例

父が亡くなり、相続人は子が3人(母はすでに他界しています)でした。父の遺産としては、父が創業した会社の株式、A土地・建物、B借地権、預貯金などです。父が創業した会社は次男が後を継いで経営をしていたのですが、長男、三男が次男を相手にして、遺産分割の調停を起こし、次男が当事務所に依頼をしました。

調停で争点になったのは、長男は、父から、自分の家を建てるための費用を出してもらっているのではないか(特別受益があるのではないか)、次男は、若い頃から、社長である父のもとで働き、小遣い程度しかもらっていなかった時期も長かったので、特別の寄与があるのではないか、また、遺産をどのように分けるのかということでした。結局、調停では話合いが合意に達することはできず審判になり、裁判官が、決定によって、遺産をどのように分けるかを決めました。

まず、長男の特別受益については、長男はこれを否定していること、また、長男が家を建てるための費用を出してもらったという証明が不十分であるという理由から、裁判官は特別受益を認めませんでした(はっきりした証拠がないと、なかなか認めてもらえません)。

次男の特別の寄与については、給料をもらっていなかった期間が長いことから、次男に10%の特別の寄与を認めました<(妥当な額の給料をもらって働いていたということであれば、これは普通の勤務ですから、特別の寄与は認められません)。 一方、分け方ですが、次男はA土地・建物を使って会社を経営していることから、会社の株式とA土地・建物は次男が取得する、B借地権については長男が取得する、預貯金は三男が取得する、ただし、次男の取り分が多いので、次男は、長男、三男に対して、裁判所が決めた代償金を支払うというものでした。 次男は、会社の株式とA土地・建物を取得でき、会社を継続していくことができたこと、また、10%の寄与が認められたことなど、よい解決ができたのではないかと思っています。

3)土地を単独所有とするために遺産分割調停を行った事例

父親と同居していた土地について、父親所有のものと考えていたところ、実際には曾祖父のものであり、曾祖父の代から一切相続手続がなされていなかった状態でした。父親が死亡し、同土地上に家を建て替える関係もあり、同土地を依頼者の方の単独所有としたかったため、遺産分割調停を共同相続人らに申立てることとしました。

曾祖父の相続開始から、かなりの年数が経過してしまっていたため、既に死亡した方を除いても、本件土地の共同相続人は20人以上になっており、高齢者で認知症を患っている方もいました。また、古い戸籍等については、既に保管期間を過ぎたものや、第二次世界大戦により焼失してしまったものなどもあり、戸籍が追えない、実際に生存が確認できない法定相続人もいました。

共同相続人のうち、遺産分割調停申立て前に交渉出来る方々に対しては、予め事情を説明の上、手続内で依頼者の方に対し相続分の譲渡を頂きました。また、生存が確認できない法定相続人については既に死亡しその方の相続人も存在しないであろうことを裁判所にご説明した上で、調停の当事者から外すこととしました。

その上で、認知症を患っている方については成年後見の申立てをお願いし、選任された成年後見人から相続分の譲渡を受け、その他交渉が出来なかった方々には代償金をお支払いすることにより、本件土地を依頼者の方の単独所有とする遺産分割調停を成立さることが出来ました。

4)相続に近い金額での遺産分割協議

被相続人は、第一相続が実父、第二相続が実母、相続人は3人という事案で、遺産は、預貯金・土地・建物という事案に関与いたしました。
この事案では、相続人の一人(相手方)から出された、実母が作成したとされる遺言書が第一の争点となりました。その遺言書には、実母の財産は相続人の一人に全て相続させる旨が記載されており、その他の相続人は、当初、この遺言書が偽造されたものであると主張していました。しかし、私の依頼者は、偽造を証明できるだけの証拠がなかったため、この遺言書を前提に遺産分割調停を進めていくことにしました。
この遺産分割調停では、第二相続(実母の財産の相続)については相手方である相続人の一人が全財産を取得することになりましたが、第一相続は法定相続分以上のものが取得できましたので、結果的には、法定相続分とおりの相続に近い金額での遺産分割協議が成立しましたので、ご依頼者には、満足いただけたのではないかと思います。

5)新たに見つかった土地についての遺産分割調停の事例

被相続人は父、相続人は2人という事案で、遺産は土地という事案に関与いたしました。これは、実は、被相続人が亡くなった際に遺産分割調停がなされていたのですが、その遺産分割の際に、今回の土地だけがなぜだか漏れてしまっていた、という非常に珍しい事案です。
この場合には、遺産分割の無効などを主張することも理論的には可能なのですが、非常に煩雑な手続きになってしまうことと、すでに代償金などの支払いを終えていたため金銭精算が必要となることから、新たに見つかった土地についての遺産分割調停をすることとしました。
調停自体はそれほどもめず、土地を取得した方がもう一人の方に代償金を支払うことで、円満に遺産分割調停は成立しました。